YSG(横浜シェイクスピア・シェイクスピア・グループ)は、ここ数年メンバーも増え、盛況さを年々増しているようで何よりも喜ばしく思っている。
今回は15人の出演者のうち3分の1である5人がYSG初参加ということであった。
メンバーが増えたこともあってそれにつれて観客の数が増えただけでなく、観客層も多彩な顔ぶれとなっており、若い人もいれば年配者、それにメンバーの家族関係からか、小学生ぐらいの観客まで降り、自分が観劇した当日は準備した椅子が足りずに後から付け足すほどで満席であった。
俳優は何よりも観客あってのもので、これだけ盛況であれば演じるのにも力の入り具合が違おうというもので、それが演技にも自然と現れていた。
メンバーの増加は演じる者だけでなく、スタッフ関係も相当に充実してきており、特に製作統轄者である海老塚祐也君は今回の舞台全体の主役と言ってもいいほどの働きであった。
舞台装置は海港都市を想起させるイメージで、開演前は深いブルーの色で海に覆われていて、そこでもうすでに我々を劇の世界に引き込んでいた。
エフェソスが商業都市であることを観客に意識づける意図もあって、開演前にその海老塚君が出演者の3人を売り子にして舞台に呼び出し、YSG関連のグッズや『間違いの喜劇』の書籍販売のPRをさせたが、その演技ぶりを観ていると、彼がドローミオの役を演じる俳優かと思ったほどであった。
本番の舞台そのものでも注目すべき点が多々あった。
サイァラキューズ(シラキュースではなく、あえて別の発音で表記されているのも特徴であった)の商人イジーオン(瀬沼達也)が自分の半生を語る時、エミリア(小嶋しのぶ)を妻とし、双子の子が生まれたこと、海で嵐に出あい、それぞれ双子を抱えたイジーオンとエミリアを結びつけていた柱が二つに裂けて別れ別れになるシーンを可視化させて、エミリアを登場させ、二組の双子はバスケットに入った人形で表し、イジーオンとエミリアは柱に見立てた1本のパイプを握りしめ、それが二つに分かれて二組は別れ別れとなるという演出をしている。
シェイクスピアの時代では小道具などほとんど用いず、すべて台詞で観客に想像させ、観客もそれを楽しんでいたわけだが、英語がネイティブでない観客には、このように可視化されることによってリアルに感じることが出来、この演出法は初めて観ただけに感心した。
この冒頭部分では、エフェソスの公爵ソライナス(坂元真理子)の台詞がすべて日本語でなされ、話の展開の導入部としていきなりすべて英語で始まるより、この物語を知らない人に対しては状況が呑み込みやすくてよかったと思う。
これまでのYSGの手法では、ナレーター方式で日本語による解説がなされことが多かったが、この方式だと原作にはない余分な時間が必要とされるので、今回のような方式の方がベターで、より親しみも感じられた。(もちろん、状況によってはナレーター方式が良い場合もある。)
イジーオンは公爵の情状酌量によって死刑執行を夕方まで伸ばされ、釈放金を工面してくれる友人をエフェソスで探し求める時間を与えられるが、これも原作にはないが、舞台進行中イジ―オンは時折エフェソスの街をさまよい、エミリアも表象的に姿を現わすという工夫がなされていた着想も面白いと感じた。
舞台では主役の役を食う役者や場面がよくあるが、今回、そういう場面として、妻エイドリアーナから気がふれたと思われたエフェソスのアンティフォラスを教師ピンチに取り押さえさせる場面で、狂言回しの台詞でピンチを演じた山伏姿をした阪口美由紀の演技と台詞が圧巻であった。
彼女の台詞回しと一連の所作は、狂言をよくする演出者の佐藤正弥の指導によるものというが、何よりも演じる彼女がその役を楽しんで演じており、それが自ずと伝わって来て、観ている我々も非常に楽しく、面白く感じた。
後から聞けば、彼女は今回がYSG初参加というが、とてもそのようには見えなかった(毎年観ているのに、誰が初参加も覚えていない自分がそこにいる)。
彼女は、夫婦で参加しており、夫君の阪口智聡氏は冒頭部に登場してくる商人1の役であったが、ピシッと決めたスーツ姿は商人というより颯爽としたビジネスマンという姿で、英語の台詞もさっそうとして素晴らしく、演技もさわやかさがあって好感の持てるものであった。
エイドリアーナの女中リュースを演じる増留俊樹は舞台には登場せず声だけの登場であるが、本人に代わって女装した顔がアップで描かれた絵として登場し、笑いを誘う。
彼は商人2の役でも登場するが、この時も、相手役の金細工師アンジェロ(細貝康太)が用いる携帯電話での会話で声だけの出演で、本人は最初から最後まで姿を現わさない。
主役の二組の双子、アンティフォラスとドローミオの兄弟のうち、アンティフォラスは佐々木隆行が二役で演じ、ドローミオ兄弟は遠藤敬介と斉藤佳太郎が演じた。
アンティフォラスを演じ分ける際、エフェソスのアンティフォラスの時には、ジャケットの襟元に赤い花びらのブローチを付けるという工夫をしていたのも観客にとっては分かりやすくてよかったと思う。
ドローミオ兄弟の動きは速いので、これは二人で演じる方がベターだと思うので問題ないが、アンティフォラスが一人二役となると、最後の再会の場面にどうするかが一番関心事となってくる。
この最後のシーンでは、マネキンにアンティフォラスの衣装を着せ、顔の部分は前後左右から撮ったほぼ実物事物サイズの顔写真からなる四角形の箱で代用するという意表を突いた細工に思わずみんな笑ってしまった。
アンティフォラスの妻エイドリアーナ(飯田綾乃)を着物姿で登場させたのも、身近に引き付けるという効果があったのではないかと思う。彼女の英語の台詞を聴くのも今では期待の一つになっている。
今回初参加というエイドリアーナの妹ルシアーナを演じた遠藤玲奈は、初参加とは思えない演技力と英語の台詞力であった。
そのほか、初参加は先に挙げた阪口夫妻とソライナスの坂元真理子のほかに、バルサザーと警吏の役を演じた福脇遥一の5人であった。
最後になったが、妖艶な娼婦を演じたのは杉山由紀。ぴったりのはまり役であった。
多士済々なメンバーで、盛況な舞台を楽しませてもらった。
上演時間は、休憩なしで1時間40分。
演出/佐藤正弥、6月24日(土)14時開演、岩崎ミュージアム・山手ゲーテ座
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