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  東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)朗読劇 
             『トロイラスとクレシダ』         
No. 2017-025

 明治大学の井上准教授と東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)主宰者である江戸馨さんの御好意で「シェイクスピアの現代的魅力」としての授業の一環である『トロイラスとクレシダ』の朗読劇を聴くことが出来た。
 5月の連休の学生たちの課題図書であった『トロイラスとクレシダ』を立体的に理解してもらうための趣旨の授業の一コマであるため、"雑司ヶ谷シェイクスピアの森"の会員の一人である篠原順子さんを除き、聴衆は当然のことながら学生さんたちばかりである。
 この企画は今年初めてのものではなく、毎年、授業の一環としてTSCを招いて行われているようであることが、冒頭の井上准教授の説明で察せられた。
 シェイクスピアの作品は戯曲であり、従って机上で読むだけでなく、実際の舞台を観ることが大事だと思っているので、この授業形式は非常に良い企画だと感心させられただけでなく、このような授業を受けることが出来る学生たちが羨ましくもあった。
 シェイクスピア時代の観客はaudience(聴衆)であり、まさに聴くことを楽しんでいたので、朗読劇という形式は授業としても最適であると思う。
 朗読劇に先立って、江戸馨がイギリスで観た『トロイラスとクレシダ』の舞台の話を当時のパンフレットの写真を映し出し、どのように演じられ、それをどのように楽しんで観たかという経験を興味深く語られた。
 朗読劇の内容は、トロイとギリシアの陣営の場面を交互にして展開され、1幕1場(トロイ:プライアム王の宮殿の外)、3幕3場(ギリシア軍の陣営)、4幕4場(トロイ:意地悪な運命―恋人たちの別れ)、4幕5場(ギリシア軍の陣営:ギリシアの武将たちとクレシダ)、5幕2場(ギリシア軍の陣営:非情な運命)の5つの場面を、それぞれの場面に先立って江戸馨が概要の説明をし、佐藤圭一のリュートの演奏から始まって、江戸馨を含めて総勢5名の出演者によって朗読された。
 取り上げられた5つの場面に全部で15人の人物が登場するので、5人が一人で何役もかねて朗読することになるが、トロイラス役の真延心得とクレシダ役のつかさまりは最後まで同じ役を務めたが、その他の登場人物は出演者全員が、場面によって同じ役を違う出演者が演じることも多々あった。
 それぞれの役に応じて声色を変えての朗読であるものの、時に誰が誰か分からなくなることもあった。
 しかし、この作品をかつて原文で読んだ時、途中で投げ出してしまって最後まで読み通せなかったという経験があり、もともと読んでいても混乱してくるので、誰が誰か分からなくなってしまうというのは朗読者のせいではない。
 TSCのシェイクスピア劇は、すべて江戸馨のオリジナルの訳でされてきており、この作品も例外ではなく、翻訳自体も楽しんで聴くことが出来た。
 授業の一環であるために、この授業の内容の試験はない代わりに、最後に学生たちにはこの朗読劇を聴いてのコメントを提出するのが課題となっていたので、学生たちの感想に大いに興味がある。
 朗読者は、江戸馨、つかさまり、真延心得のほか、かなやたけゆきと星和利(劇団AUN)の5名。
 全体の時間は、授業の一コマで100分。
 (非公開であるが、記録として残す)

 

訳・構成・演出/江戸馨、作曲・演奏/佐藤圭一、
5月19日(金)17時10分~18時50分、明治大学・和泉キャンパス・第一校舎にて(非公開)

 

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