荒井良雄沙翁劇場は、いつも通り二部に分かれて、まずSPレコードでブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77番第一楽章鑑賞から始まり、第一部が日英朗読でシェイクスピアのソネット日英朗読(25番と57番)と辻邦生の『花のレクイエム』から「5月 クレマチス」の朗読(尾崎廣子)、そしてヴァイオリン協奏曲第2楽章に続いて第二部の『ヴィーナスとアドーニス』(前篇)が朗読され、途中に第3楽章が間奏曲として入った。
ソネット朗読では、今回から日本語訳(高木訳)を久野壱弘が朗読し、英語をいつも通り高木が朗読した。
坪内逍遥訳での『ヴィーナスとアドーニス』朗読劇は、おそらく今回のものが本邦初演ということになるだろう。
荒井良雄先生が坪内逍遥訳シェイクスピアを次世代に引き継いでいくという新地球座の使命として課したことが、今回その第一歩を踏み出したともいえる出演者の顔ぶれとなっていた。
『ヴィーナスとアドーニス』緒言を石井麻衣子が担当し、本文の地の文を高橋正彦と久野壱弘、ヴィーナスの台詞を今回ヴィオロン初出演のやなぎまい、アドーニスを、同じく逍遥訳シェイクスピアでは初の出演となる小春千乃(こはる・ゆきの)が受け持った。
今回この二人の初出演により、いつもとは違った観客層となって、彼女たちが集客した観客が大半を占め、雰囲気もいつもとはかなり違って感じられた。
演じる者だけが引き継がれても肝心の観客がいなければ必然的に滅びざるを得ないので、このことは次の世代に引き継いでいくという点においては好ましいことであった。
劇と異なり詩の文体は雅文調で擬古文となっているので初めての挑戦としてはかなりハードルが高いのではないかと危惧もしたが、むしろ初出演の二人の方がベテランの二人より溌剌として感じさせるほどの好演で、台詞回し(朗読力)もよかった。
逍遥訳を守り引き継いでいく新地球座ならではの大胆な試みで、聴く方にとっても貴重な体験であった。
雅文体、擬古文の格調は、音楽のように聴くのが一番だろう。自分はそのように聞いて楽しんだ。
難しい言葉の意味を追うより、その調べを楽しんだ方がいい。また、そのように楽しませてくれた。
次回、後篇が楽しみである。
監修/荒井良雄、演出/高橋正彦、5月17日(水)16時半開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロン
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