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  Pカンパニー公演、「福田善之を読む」その6
               『夢、「オセローの稽古」の』      
No. 2017-022

 スーパーの倉庫に店長をはじめ社員たちが集まって『オセロー』の稽古をしているという場面設定。
稽古が始まる前に、台本の背景について語られる。
 『オセロー』の背景となっているキプロスに関係して強国トルコの軍勢が嵐で壊滅する場面は、1564年生まれのシェイクスピアにとって生々しい記憶として1588年のスペインの無敵艦隊の敗因が同じように嵐であったことが重なっているという説明に教えられる気がした。
 店長は色の黒い外国人(と言っても日本で育ち、日本語を日常語としている)で、稽古を始めようとしている矢先にいつものように外国人店長の色の黒さを侮蔑したヘイトスピーチの電話が入るところから始まる。
 稽古の大半は会田一生が扮するオセローと林次樹が演じるイヤーゴウの二人が中心になって、福島梓のデズデモウナ、観世葉子のエミリアがそれに伴走するような形で進められ、この二組が見せ場を作りだし、キャシオウやビアンカ、ロドリーゴウなどがちょっぴり間に入ってくる。
 稽古の進行途中では場面転換以外は余分なものが入らず、ほとんど舞台そのものを観ている感じで進められる。一番の見どころは会田一生のオセローで、朗読劇ながらもメイクもリアルで、台詞も台本を持ちながらも本番さながらの演技であった。
 福島梓のデズデモウナが歌う柳の唄も素晴らしく、十二分にたっぷりと聞かせてくれた。
 ロドリーゴウ役と演出者役を兼ねる森源次郎は、『オセロー』という重い内容の中で軽みを入れた演技で気分を和ませてくれた。
 終幕が少しサスペンス風で、現実の世界でデズデモウナ役の女性を愛している店長のオセローが彼女の首を絞めて殺す場面で、力が入り過ぎて救急車の出番となり、愛情問題が絡んでの事件かと思わせる場面があった。
 稽古の終盤にきて、師団長(部長)のレディが来て、本日限りで店を閉め、社員はそれぞれ別の地の店に配転となることを発表し、店長はインドネシアかトルコへの配転をほのめかす。
 店長はオセローの最後の場面の稽古までさせてくれと言って、一人で最後の台詞を語る。
 それから何年か後、店長はデズデモウナ役の女性と結婚し、インドネシアやトルコの地に転勤となり、イスタンブールから音信不通として出された手紙が戻ってきて、場面はトルコの戦火を思わせる場面を表出するのが、現代のトピックと重ねられる。
 最後に、デズデモウナの父ブラバンショウやロウドヴィーコウを演じた前田昌明が『夢、ハムレットの』の中の台詞「いまくればあとには来ない、あとで来ないならばいま来るだろう、いまでなくとも、かならず来るものは来る・・・」という台詞を語って幕となる。
 上演時間は、休憩なしで2時間。

 

木下順二訳に基づく~台本・構成・演出/福田善之
5月7日(日)14時開演、西池袋・スタジオP、チケット:2500円、全席自由

 

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