高木登 観劇日記2017年 トップページへ
 
   日英シェイクスピア祭 2017 『リア王』 二題       No. 2017-020
 

『哀れなトムの物語』『リヤ王―影法師リヤ』

偶然の結果であるが、今年の日英シェイクスピア祭は第一部、第二部とも『リア王』となった。
しかも、それぞれ異なった観点から再構成された『リア王』で、第一部は清水英之翻訳・台本により、エドガーを主人公にし、タイトルも、『リア王』のもう一つのストーリー「哀れなトム」となっており、第二部は坪内逍遥訳によるリア王の登場しない『リヤ王―影法師リヤ』というタイトルで、筆写が台本構成したものである。
『哀れなトム』の台本作者である清水は、「エドガーとイエスと悪魔の誘惑、リア王と道化とエドガーの裁判の場面が魔女裁判を暗示していることを観客に伝える」という意図をもって場面を抽出しての構成で、そのため各場面に入る前にその間における劇の展開が分かるように筆者が加えた解説文を自ら朗読するという試みをしている。
この朗読劇の主人公エドガーをYSG(横浜シェイクスピア・グループ)座長の瀬沼達也、リアとエドマンドとグロスターを清水英之がそれぞれ担当し、道化とケント、グロスターの一部を筆者が受け持った。
第一部は、この朗読劇に引き続いて、山茶花クラブのメンバー、二村昌子、所牧子、清水英之、関根恵子によるシェイクスピアのソネットと名場面の一部朗読が行われた。
第一部が予定の時間を上回ったため、第二部は15分開幕を遅らせての開演となった。
今年3月のヴィオロン文芸朗読会でも坪内逍遥訳で筆者の台本で『リヤ王』の朗読劇を行ったが、その時の登場人物は、リヤとエドマンドを久野壱弘、グロスターとオルバニーを高橋正彦、ゴナリルを沢柳廸子、リーガンを北村青子、コーディーリヤを倉橋秀美が演じ、今回はそれとは大胆に変えた構成となっている。
リヤの3人の娘を中心にした若者だけで、主人公であるリヤを登場させず、娘たちの台詞でリヤの存在をいかに感じさせるかを試みるものであったが、ゴナリルの北村青子、リーガンの倉橋秀美、コーディーリヤの白井真木という最高のメンバーで、見事にリヤの存在を感じさせてくれた。
リヤが登場しない今回の台本は、リヤの3人娘にこの3人が出演するということもあって、この3人を主人公にして考え付いたものである。
ゴナリルを演じた北村青子は震えを感じるほどの見事な演技でその凄みを堪能させてくれ、リーガンを演じた倉橋秀美は色気を漂わすなかにねっとりとした悪女感を出し、これまでにない演技の一面を見せて楽しませてくれ、白井真木のコーディーリヤは、リヤとの再会の場面(リヤは実際には登場しないが)で、跪いて台詞を語る時には思わず目頭が熱くなって涙がこぼれるほどの名演技(台詞力)であった。
白井真木は3月の『リヤ王』には出演していないが、前回出演していた北村と倉橋も役柄を変えての登板であったが、期待に違わずその持ち味を十二分に出し切って、台本作者としての名利に尽きるものであった。
このリヤの3人の娘たちの台詞とともにリアの存在感を一層強く感じさせたのは、尼理愛子の薩摩琵琶の演奏であった。
琵琶の撥が掻き立てる音がリヤの怒りの心を見事に表出しており、リヤがそこにいるかのように感じさせてくれた。
尼理愛子は、琵琶だけでなく尺八も合わせて演奏し、この朗読劇は琵琶の演奏に始まり、尺八の演奏で幕を閉じた。
出演は他に、エドガーに久野壱弘、エドマンドに高橋正彦で、登場人物はリヤの3人娘とこの二人合わせての5人のみの構成で、演出は、高橋正彦。
白井真木、倉橋秀美、北村青子の3人は、6月に新宿3丁目の"SPACE梟門"で、今度は松岡和子訳で『リアの道化と3人の娘』を同じく筆者の台本で演じることになっていて、こちらはこの3人だけの朗読劇で、コーディリアを演じる白井真木が道化を兼ねる以外は、今回と同じ役柄である。

(注)「リア」や「リヤ」などの登場人物の表記は、翻訳者の表記に従っている。

4月22日(土)13時半開演、自由が丘の"STAGE悠"にて

日英シェイクスピア祭2017(清水、瀬沼、高木)

日英シェイクスピア祭 2017(清水、瀬沼、高木)

筆者が所属する「原書でシェイクスピアを読む会」の"雑司ヶ谷シェイクスピアの森"のメンバーの一人である宮垣弘さんが観劇の感想記を寄せて下さり、快く転載の御承諾をして下さいましたので、その内容を全文そのまま下記に掲載します。

 

宮垣弘さんの観劇感想記

<荒井先生没後、早や3年になるとの清水英之さんの挨拶の後、第一部前半「日英語シェイクスピア朗読」、『リア王』もう一つのストーリ:「哀れなトムの物語」が始まった。
瀬沼達也さん、清水英之さん、高木登さんの朗読劇、熱演で所作も随所につき、朗読劇であることを忘れさせた。『リア王』の本質は人間の狂気にあると思っている私には、ベテラン瀬沼達也さんを中心とする名演技で見事にそれが表現されて感銘を受けた。
清水さんの構成は成功しており、日本語訳は秀逸、場面の合間にはいる高木さんの解説は朗読劇として、変わった試みだと思った。
後半は、ソネット他の朗読では、荒井先生の薫陶を受けられた方々が英語ー日本語の見事な朗誦が披露された。英語は綺麗だが、聴解力の乏しい私には、日本語―英語の順でやって頂けたらと思った。
第二部は「坪内逍遙訳『リヤ王―影法師リヤ』」プロの俳優さんたちの演技で、白井真木=コーディリア、倉橋秀美=リーガン、北村青子=ゴネリルが2姉妹の個性を際立たせ、色恋と陰謀の久野壱弘=エドガー、高橋正彦=エドマンドが劇を立体的にしていた。
出演者の高い力量にもよるのだが、逍遥訳が現代に立派に通用することを知った。
高木さんの台本は、小舞台で演じられることを前提に、『リア』の一面である、世俗あるいは男女に渦巻く欲望がうまく表現されていた。異色は 琵琶•尺八で音響を務められた尼理愛子、出しゃばらないが、十分存在感のある演奏であった。武満徹を思わせ、この方の語りでシェイクスピアを聴いてみたい。
一部、二部ともリアが登場しない(注)のであるが、逆に、主役を除いても、これだけの内容を持つ作品を書いたシェイクスピアはやはりすごい!と改めて思った。>(2017.04.23)

(筆者注: リアは「第一部」では一部登場する)

 

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