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  タイプス・プロデュース公演、第84回 『ロミオとジュリエット』   No. 2017-016

女歌舞伎尚主宰のさとうしょう脚本・演出による

 女歌舞伎劇団尚を主宰するさとうしょう脚本・演出による『ロミオとジュリエット』の幕開けの場面が印象的であった。
 開演前から観客の案内や誘導をしている乳母役のまるのめぐみとキャピュレット家の召使いピーター役の五十嵐正が、板付きのまま舞台が始まり、(ネオ)歌舞伎風衣装の役者たち4人が入り乱れての舞踊風所作の中、新本一真演じる大公のプロローグの台詞が、ミュージカル風に歌われたのもこのドラマを予兆させるものであった。
 歌舞伎衣装の若者たちの踊る所作はキャピュレット家とモンタギュー家の喧嘩騒動を表象し、大公が両者を𠮟責して立ち去らせ、次の舞台へと展開する。
 キャピュレット家側のティボルトとモンタギュー家側のベンヴォーリオを、それぞれCHIHARUと髙橋ちぐさの女優に演じさせているところが女歌舞伎を主宰するさとうしょうの際立った特徴ともいえる。
 なかでも3歳からクラシックバレエを始め、ジャズダンスまでこなすCHIHARUのティボルトの演技所作はその衣装と相まって見どころのあるものであった。
 1時間30分と圧縮された舞台は、基本路線は原作に沿いながらも思い切った改作の場面が多々あったのもこの舞台の特徴でもあった。
 原作にはないジュリエットの従妹としてヘレナを登場させるので、プログラムのキャスティングを見た時にはロミオが最初に恋した女性かと思ったがまったく関係なく、ロミオはジュリエットに恋するまで特定の女性を愛しているわけでもなく、恋に恋する若者として登場する。
 ジュリエットの従兄ティボルトは幼なじみでもある彼女を愛しているが、その愛はジュリエットにも気づかれず、一人胸に秘めたままで、ジュリエットにパリスとの結婚話が出ると真っ先に反対するのが、ジュリエットを愛しているティボルトであったのも印象的であった。
 この辺の着想はもっと展開させると面白いものになりそうであるが、それは別の機会に譲ることにしよう。
大公とキャピュレットを演じる新本一真は、キャピュレット夫人の台詞をも語るだけでなく、途中、ロミオとジュリエットの恋の行く末を予兆するコロスの役を演じて3役をこなすが、その秀逸な台詞力がこの舞台全体を引き締めた。
 台詞力では、ロレンス神父を演じた須藤正三もしっかりしていてよかったが、一つ気になったのがその足元、今風の先のとがった革靴を履いていたのが役柄にそぐわず、違和感があった。
 ジュリエットを演じた小柄な箕輪菜穂江は最初に登場してきた時には少し意外なキャスティングに感じられたが、舞台の展開とともに14歳直前のジュリエットのイメージとして相応しく微笑ましく感じられるようになった。
 小柄なジュリエットに対してロミオ役の仙谷陽亮は大柄で、その存在と演技が今回の小さな空間では収まり切れない感じで惜しい気がした。
 出演者全員そろっての歌と踊りで締めるエンディングは当日満席の熱気と相まって、この舞台全体の印象を華やかに感じさせ、楽しいひと時を過ごすことが出来た思いにひたることができた。

 

脚本・演出/さとうしょう、4月2日(日)13時開演、両国・スタジオ・アプローズ

 

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