登場人物全員がボトムで、ボトムたちが演じる劇中劇 『夏の夜の夢』
キャスティングを見ると、登場人物全員がボトムとなっている。そして、そのボトムたちが劇中劇として『夏の夜の夢』の貴族と妖精たちを演じることになっている。
アテネの職人たちが劇中劇『ピラマスとシスビー』を演じる代わりに、『夏の夜の夢』そのものを演じるという逆転の趣向となっており、Bottom=底→「そこ」に何があり、何を夢見ることになるのか?!
開演と同時に、このボトムたちが頭のてっぺんから足のつま先まで包み込んだウェットスーツのような衣装で登場し、これから公爵の結婚を祝って芝居を始めるといって、中心となるボトムが次々とその他のボトムの名を呼びあげ、役を振り付ける。
顔は全員隠されているので見えないが、声から判断して中心となっているボトムは杉本政志だと知れる。
ボトムたちがアテネの職人たちを表象しているので、職人たちの出番はなく、本筋の方だけが展開されていく。
芝居が終った後、この芝居を見ていたのは年老いたシーシアスとヒポリタの二人だけで、孫たちの芝居を見ていたといた、というオチになっている。
が、芝居はここで終わらず、その孫たち(アテネの貴族の若者たちの役を演じていた者たち)が、戦場の面影がある街の映像の中から走り出てきて、そして全員が銃で殺されてしまう。
舞台の始まりでは、ボトムたちが登場する場面が、舞台奥から客席に向かって照明が照らされるためまぶしくて彼らの姿の全貌を見ることが出来ない。
客席に向かっての照明と暗転の暗闇があり、「そこ」に何があるのか見えないため、想像力を必要としてくるのが、この舞台の特徴でもあった。
今一つの特徴として、ユージ・レルレ・カワグチのドラムとヘヴィメタルの音楽がある。
また、劇中劇のハーミアとヘレナは、ボトムが演じるという設定から二人とも男優で、河村岳司と岩崎MARK雄大がそれぞれ演じ、岩崎MARK雄大はイジーアスの役も兼ね、そのイジーアスは森にハーミアを探しに来てロバの姿に変えられる。
二人ともいわゆる女役のようなスタイルはとらず、河村のハーミアはマッチョなハーミアを演じる。
劇中劇のシーシアスと妖精の王オーベロンは杉本政志が演じ、パックとヒポリタは真以美、ティターニアは葛たか喜代、ディミートリアスは加藤慎吾がそれぞれ演じ、その他のボトム役である河内大和や他の役者達は黒子のような存在として舞台を遊んでまわる。
カクシンハンの特徴的な姿であるカオスの状態で展開され、そこにあるのは「遊び」の感覚であった。
遊びとしては、真以美が演じるパックの登場が、ヘレナが舞台上にいる時から舞台奥の隅っこでラジコンを走らせて遊んでいたのもその例であったが、善し悪しの問題ではなく、この舞台の特徴として、出演者全員の演技、台詞回しがともに「遊び」感覚であったと言える。
この日、終演後に出演者によるアフタートークがあったが、予定があったのも理由の一つだが、幕切れの口上は必要なしと、劇場を後にした。
上演時間は、休憩なしで1時間50分。
訳/松岡和子、演出/木村龍之介、構成/カクシンハン
3月20日(月)14時30分開演、シアター風姿花伝、チケット:3800円、自由席
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