5m四方ほどの平土間の舞台を¬方に階段状の観客席が囲み、コーナー部には大きめの枕のサイズの黒い袋が土嚢のように積まれており、その対角線上に一本松を表象化した木が天井に向けて立っている。
舞台上に女性が登場し、一本松の方に近づき、天井に向かって指を差し向ける。
天井にはレコードとプレーヤーが逆さ向きに貼り付けられるようにしてあって、その女性が指さしたのを合図に音楽が鳴り出す。この女性(河村早映)は劇中でフィロストレートと妖精の芥子の種を演じる。
続いてもう一人女性が登場し、コンテンポラリーダンスの所作で踊る。この女性(小林真梨恵)は劇中ではヒポリュテと妖精の豆の花を演じ、テーセウス(井上幸太郎)登場とともにヒポリュテとなる。
舞台設定と開幕のシーンに加えて、この舞台の特徴としてはほかにもいくつかある。
その一つがライサンダーを男性ではなく、女性として女優(石渡愛)が演じることであった。
しかしながら、この設定は特別な必然性を感じさせず、女性として設定されていながら言葉遣いが翻訳語の男言葉そのままで中途半端な感じがした。
ライサンダーを女性として設定するのであれば、たとえば女性同士の結婚は禁止されていてアテネの法律では死刑になるとかの潤色を加えて展開させた方が面白かったのではないかと思う。
アテネの職人たちの一部を女性が演じるという趣向は特に目新しくもないが、この舞台ではクィンスとスターヴリング役を女優の藤谷みきと村井まどかがそれぞれ演じた。
今一つの特徴としては、台詞回しとして、舞台上の俳優が直接的に観客に話しかけるという手法を取っていたことである。
演出者の田野邦彦は、手のひらサイズの小誌のプログラムにこの手法を≪等価≫と呼んで、その意味合いとして「ある登場人物があるセリフを発するとき<舞台上の他の登場人物たちと観客を等価に考える>感じ」であるとして定義づけている。
この台詞回しは、小さな舞台空間においては臨場感もあって非常に効果的であったと思う。
舞台の見どころとしての圧巻は、劇中劇でティスベを演じる塚越健一のネオ歌舞伎の調子での台詞回しであった。普通はボトム(太田宏)が演じるピュラモスが剣で自殺するシーンが見せ場としてくどいほど「死ぬ、死ぬ」を繰り返すのだが、それを上回っての熱演で、思わず身を乗り出したくなるほどであった。
その他の出演は、オーベロンに永井秀樹、ティターニアに小瀧万梨子、パックに亀山浩史、ハーミアに井上みなみ、ヘレナに中野志保実、イジーアスに山田宏平、ディミートリアスに坂川慶成、スナッグに裏田大地、スナウトに磯谷雪裕。
上演は、休憩なしで2時間30分。
翻訳/河合祥一郎、演出/田野邦彦、3月16日(木)14時開演、
新宿一丁目・サンモールスタジオ、チケット:2000円(シニア)、全席自由
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