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  串田版シェイクスピア幻想音楽劇 『K TEMPEST 2017』     No. 2017-011

 タイトルからしても知れる、まさしく串田版・シェイクスピアの『テンペスト』であった。
劇場へはチケット購入の整理番号順に入場で、会場に入り口は頭を低くして木戸口をくぐり抜けるようにして入ると、そこにはいわゆる舞台はなく、平土間の四方に三々五々椅子が並べられ、さらに周囲は不規則な形で2階、3階席が作られていて、中央部が舞台となっている。
 整理番号は98番であったが、案内された椅子は平土間のコーナー部の3つ並んだ椅子の真ん中で、自分の前には小さな真四角のテーブルと椅子が2脚あり、すでに出演者たちが思い思いの服装で客席の観客に話しかけたり、出演者同士が会話を交わしていた。
 そのうちにナポリ王アロンゾーを演じる真那胡敬二が大きな本を持って大航海時代の話を始め、その大航海時代を象徴する帆船の見事な模型が持ち出されて来る。
 海に関連した話では、劇中ゴンザーローを演じる中村まことが呉の出身であることから海の雑談が交わされる。
 そうして、プロスペローを演じる串田和美が海辺で一人の女性(コロスやくともいうべき万里紗)と出会い、串田はそれが自分の夢の中の話なのか、それともその彼女の夢の中に自分が入っているのか分からない状態に陥る。
 海辺の砂は単なる砂ではなく、貝殻やその他いろいろな生態系の集まりであって、海の出来事の表象でもあり、この『テンペスト』が海の底の物語として予兆化される。
 劇は始まっているのか、それともアドリブなのか判然としない状態が続いた後、舞台上に寝転んでいた登場者全員が起き上がって、嵐の場面の台詞を輪唱のように輪読を始め、そこから『テンペスト』の劇が展開し始める。
 物語の展開の途中で間狂言のような形で話の筋とは全く関係ない量子力学のような話が挿入されたりするが、その無関係性の中に何か関連の想像を掻き立てるものがあって、それなりに興味深く聞かされた。
 登場人物の造形が、いわゆるその人物らしく作られておらず、ある意味ではぶっきらぼうな造形であるが、そこに親しみを感じるものがあった。
 『テンペスト』ではキャリバンの造形がやはり一番の関心の的になると思うが、これも特に凝った衣装やメイクもない普通の姿のキャリバンで、せいぜいが上半身裸の姿になるだけで、その言葉遣いも外国人が日本語を話すような訛りをもたせているぐらいなものであった。
 タイトルの中にシェイクスピア幻想音楽劇とあるが、コロスのような妖精たちの場面で唄われる音楽、特に音楽担当の飯塚直が発声する哀切な調べは、ロシア連邦のトゥバ共和国に伝わる喉歌ホーメイというものらしいが、それが切々と耳に響いてきて、幻想性を感じさせた。
 最後の和解の場面でプロスペローが魔法を捨てミラノへ帰る場面では、冒頭に使われた帆船の模型を、天井に張ったケーブルを走り過ぎて行かせることで表象していたのが印象的であった。
 そこで劇の始まりと同じように海辺の砂の上に全員が横たわる。
 一旦終わったように見えて、そこで再び全員が起き上がってハミング的に音楽を奏で、幻想音楽劇としての幕を閉じる。
 この舞台は、2014年10・11月に『K. TEMPEST 2014』として上演されたものを、2017年2月に串田和美が芸術監督を務めるまつもと市民芸術館の特設会場を皮切りに再演されたものである。
 上演時間は、休憩なしで2時間10分。

 

翻訳/松岡和子、潤色・演出・美術/串田和美、3月11日(土)15時開演
KAAT 神奈川芸術劇場・中スタジオ、チケット:5400円、全席自由

 

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