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  アルメイダ劇場ライブ、レイフ・ファインズ主演 
           『リチャード三世』               
No. 2017-009

 昨年(2016年)、6月7日から8月6日までロンドンのアルメイダ劇場で公演されたレイフ・ファインズ主演の舞台を映像版にしたもので、歴史は現代の世相を反映するというが、ルパート・グールド演出の『リチャード三世』も今日的な意味を多分に表出している。
 その代表的な演出が、2012年、レスターの駐車場でリチャード三世の遺骨が発掘された衝撃的な出来事を冒頭にして、発掘調査の現場を舞台化して始められるところに表れている。
 舞台中央にはその発掘作業で掘られた人一人分の大きさの墓穴があり、それが王妃の近親者たちやバッキンガム公の処刑場面などに使用されるとともに、最後にはリチャード本人がリッチモンドとの戦いに敗れてその墓穴に落ち込むことで、冒頭のリチャードの遺骨発掘作業の現場へとイメージが逆戻って行く作用をもたらしており、印象深いものがある。
 この発掘作業の場面と相応させるかのように、ヘンリー六世の遺体は肉体ではなく骸骨で、アンがそれをリチャードに見せつける場面は衝撃的である。
 近年のシェイクスピア劇は歴史劇であってもそのほとんどが現代的衣装で演出されるが、この『リチャード三世』も例外ではなく、処刑は銃殺刑として銃が使用され、スマホまでが使われていてまったく現代的な演出となっている。
 ヘイスティングズ卿のもとにスタンリー卿からの使者が登場する場面では、使者の登場の代わりにヘイスティングズはスマホでスタンリーからの知らせを受け取り、スマホで返事を送る。
 グールドの演出で今回最も衝撃的に感じたのは、リチャードが王妃エリザベスに娘のエリザベスとの結婚の説得を迫る場面で、墓穴のそばで彼女を犯して承諾させる場面であった。
 リチャードは彼女を説得し得たものとして、アンを口説いた時と同じようにそのことを誇ると同時に、女の節操のなさを痛罵する。
 レイフ・ファインズが演じるリチャードの凄味は、人を惹きつける(あるいはたぶらかす)ときのこぼれるような笑みの表情と内面の悪意をむきだしに表出するときの表情の使い分けに出る。
 幼い王子ヨークがリチャードをからかってその背中におぶさったとき、ヨークを睨みつける形相は凍りつかせるような凄みのある表情をする。そのリチャードの姿態は背中に瘤を負い、片足はびっこをひき、片方の手は枯れ枝のように萎えているという伝統的なスタイル。
 舞台は全体的に真っ暗な色調で、映像では一層周囲が暗く感じたが、それだけにラトクリフがヘイスティングズを処刑する前に血の色をした真っ赤な手袋をはめる場面は唯一色を感じさせ、強烈な印象で生々しく迫るものがあった。
 ランカスター家もヨーク家ももとはプランタジネットという同じ一つの根っこから生まれたものであり、その両家の王権をめぐっての争い(ばら戦争)は、現在のシリアの紛争(内戦)をも映し出す現代的意味を持っており、それが今、この歴史劇『リチャード三世』を演出する今日的な意義ともなっている。
 出演は、主演のレイフ・ファインズのほか、マーガレット王妃役にヴァネッサ・レッドグレイヴ、その他、スコット・ハンディ、トム・カンティ、ジョアンナ・ヴァンダーハムなど。
 上映時間は、インターミッション20ふぁ分を含んで3時間30分。


演出/ルパート・グールド、2月18日(土)、TOHOシネマズ日本橋、料金:3000円

 

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