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  ラゾーナ川崎プラザソル会館10周年記念公演
              梶原航主演 『ハムレット』        
No. 2017-007

 ラゾーナ川崎プラザソルとしては一昨年の2015年10月に西沢栄治演出、梶原航主演による『マクベス』に続くシェイクスピア劇第二弾で、演出と主演は前回と同じく、西沢栄治と梶原航。
 ラゾーナ川崎プラザソルは若手の演劇関係者の人材育成と発表の場としているので、出演者は若手の俳優たちで、主演の梶原航をはじめ半数近くが新国立劇場演劇研修所出身者であった。
 今回の舞台は七角形状の張り出し舞台で、舞台の高さも30cmしかなく、客席最前列とは1mも離れていない。ホリゾントには天井から3、40cm幅ほどの白い布が短冊状に全面隙間なく垂れ下っていて、その上方部には白のワイシャツが所狭しと吊るされている。
 開場となって劇場内に入ると、英語によるハムレットの朗読劇が聞こえ、開演となるまでずっと続いた。
 開演とともにカジュアルな色とりどりの服装の出演者たちが舞台上に集まって、全員揃ったところで一同深々と観客席に頭を下げて挨拶する。
 腸(はらわた)に沁みとおるような轟音が響き、『ハムレット』劇の終幕を思わせる場面があって、全員ホリゾントの奥へと引っ込んで行き、ハムレットが一人だけ再び奥から飛び出して来て、「生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ」という'To be, or not to be'の第4独白が激しく語られ、独白が終わると奥へと引っ込み、ホリゾントに'To be, or not to be'の文字に続いて'Who's there?'(誰だ?)の文字が映し出される。
 このままカジュアルな服装での舞台となるかと思ったが、バナード、マーセラスの夜警の登場は平服姿から兵士としての衣装に切り替わっており、ハムレットもオーソドックスな全身黒の衣装で登場する。
 前回の『マクベス』も主演の梶原航は激走するマクベスであったが、今回も疾走する精悍なハムレットであった。突っかかっていくような口ぶりで激しい苛立ちを見せるハムレットであった。そのハムレットがクローディアスとあからさまに対峙する場面が二度ほどある。
 一度目は、オフィーリアを囮にして物陰からハムレットの様子を窺っていた場面の後である。ハムレットがオフィーリアに「尼寺へ行け」と言った後走り去っていき、その場に残されたオフィーリアの「ああ、気高いご気性が壊れてしまった」という台詞の場面が続くが、なんとその台詞をきっかけに天井からオフィーリアの頭上にザッといきなり水が落ちてきて、彼女はずぶぬれになる。
 泣き崩れるオフィーリアの前に、隠れていたポローニアスと王が現れるが、台詞のないまま無言でポローニアスはバスタオルで濡れたオフィーリアを抱きかかえるようにして引き下がって行く。その場に一人残って立ちつくしている王の前に、引き返してきたハムレットが現れ、二人はしばらく睨み合った状態のまま対峙する。
 次の二人の対峙の場面は、劇中劇の後である。
 王は「明かりを持て」と言った後、劇中劇で役者が用いたサーチライトを持ってハムレットを照らし、同じくサーチライトを持ったハムレットもクローディアスにそれを向け、二人はしばらく睨み合って対峙する。
 緊張感の漂う舞台の中で、コミカル・リリーフが二つほどある。
 一つは豊田豪と川口高志が演じるローゼンクランツとギルデンスターンで、二人とも同じおかっぱ風の髪型をして同じ衣装を着ており、どちらがどちらか区別がつかず、ガートルードも二人の名前を間違えて言うが、観ている観客の自分にも区別がつかなかった。この二人の演技がコミカルで墓掘り人二人の会話と同じく漫才のように面白かった。
 その墓掘り人の場面では、二人の墓掘り人がお互いを「墓掘り人1」「墓掘り人2」と呼び合うところが意表をついていてまず面白く、二人の会話も現在のトピカルな時事問題、アメリカ大統領のごく最近の卑近な話題をネタにして漫才風で、笑わせてくれる。
 その他の演出上の特徴としては、逢沢凛が演じるオフィーリアの狂気の場面では、ハムレットとの肉体関係があったことを感じさせる所作を演じた。
 キャスティング面で、フォーティンブラスをフランス人であるジリ・ヴァンソンに演じさせることでデンマークとノルウェーとの違いを鮮明に感じさせるという効果があったと思う。
 ハムレットがそのフォーティンブラスの率いるノルウェー軍と出会う場面、ロゼとギルに伴われてイングランドに送り出される場面では、ハムレットが両手を手鎖で縛られていたのには驚きを感じた。
 最後の場面は、レアティーズとの剣の試合を前にしてのハムレットの台詞'Let be'から、ジョン・レノンの'Let it be'がエンディングテーマ曲として流され、ホリゾントにはHAMLETとLETBEの文字が映し出されたのが印象的で、そのホリゾントが強い照明で照らし出され、上に吊るされた白いワイシャツがくっきりと鮮やかに浮かび上がって、それがまるで死体が累々と横たわっているイメージを感じさせたが、身体の中身がないだけ一層強い印象を受けた。
 出演は、王クローディアスにチョウヨンホ、王妃ガートルードに岡野真那美、ホレイショーに坂川慶成、ポローニアスと墓掘りに大里秀一郎、レアティーズに大髙雄一郎、他、総勢14名。
 上演時間は、途中10分間の休憩を入れて2時間30分。


翻訳/松岡和子、演出/西沢栄治
1月31日(火)13時開演、ラゾーナ川崎プラザソル、チケット:4000円、全席自由 

 

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