高木登 観劇日記2017年 トップページへ
 
   第9回荒井良雄沙翁劇場 『ヂュリヤス・シーザー』(後篇)     No. 2017-003
 

加藤長治が創立した「地球座」は、戦後に「近代劇場」として復活され、「近代座」へと継承されて坪内逍遥訳シェイクスピア劇を上演してきたが、20種にしか達しなかった。
そこで、2013年4月から阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロンを中心にして、未上演作品を荒井良雄朗読劇台本によって公開朗読を始め、2015年2月の『末よければ総てよし』をもって全作品の上演が達成された。
その達成をもって荒井良雄先生が亡くなられたのは4月8日のことで、今年で早くも3回忌を迎えることになる。
喫茶ヴィオロンでの文芸朗読会(1990年2月に創始)を、2015年6月から荒井良雄先生の遺志を継いで「新地球座」が「荒井良雄沙翁劇場」として坪内逍遥訳によるシェイクスピア朗読劇を隔月開催で開始した。
第1回目は荒井良雄朗読台本『十二夜』、第2回は10月に根本嘉也朗読台本による『じゃじゃ馬馴らし』で、第3回の2016年2月からは荒井良雄先生の遺志によって高木が台本制作にあたり、『颱風:テムペスト』、第4回(4月)『オセロー』、第5回(6月)(ハムレットが登場しない)『ハムレット』、第6回(8月)『ハムレット』(一人芝居)、第7回(10月)『冬の夜ばなし』、第8回(12月)『ヂュリヤス・シーザー』(前篇)と続けられてきた。
出演者は、新地球座代表の倉橋秀美、同顧問の久野壱弘、そして演出をかねる高橋正彦を中心にし、時にゲスト出演を加えての朗読劇で、台本構成は出演者の数を考慮して制作している。
これまで自分がかかわっているということで観劇日記に記すのを控えていたが、荒井先生の功績と新地球座の活動を記録として残すべきだと考え、これまでの経緯を記述することにした。
前回の『ヂュリヤス・シーザー』(前篇)は出演者が5名いたので、登場人物と配役は、シーザー(宮崎精一)、キャシアス(久野壱弘)、ブルータス(高橋正彦)、ポーシャ/ディーシャス(石井麻衣子)、キャルパーニャ/キャスカ(倉橋秀美)であったが、今回は出演者が久野壱弘と高橋正彦の二人ということで、台本構成に当たって、制約条件の出演者の数と朗読上演時間を原則50分前後という中で、内容を伝えるのに登場人物の数と台詞のカッティングを如何にするかに工夫を要した。
今回の作品は演出者の要望もあって前篇後篇として2回に分けての上演とし、前編がシーザー暗殺の場面までで、後篇をブルータスとアントニーの演説の場面から始める構成にして、登場人物はオクテーヴィヤス・シーザーとマーカス・ブルータス、マーカス・アントニーとケーヤス・キャシャスの一人二役でできるようにした。
台本制作の当事者としては、二人のベテラン俳優のバトルと、一人二役を如何に演じ分けるかが楽しみな所であった。
朗読とは異なり「朗読劇」と銘打っているように、表情の作りや演技も入って迫真的で朗読というより舞台そのもののように感じたという観客の感想もあった。
シーザー暗殺に関しての正当性を主張するブルータスの演説は、呼びかけそのものからが「ローマ人よ、国人よ、親友諸君よ!」と理性に訴えようとするもので上から目線であるのに対して、アントニーのシーザー追悼演説は感情に訴えるもので、「温厚なるローマ人諸君よ、親友よ、ローマ人よ、国人諸君よ」と同胞に呼びかける呼びかけとなっていて情感的となっている。
今回の朗読劇では、高橋正彦のブルータスの演説は理性的というより、彼の思い入れからくる感無量の高揚感があって情感的となっていた。余りに情感的であったためか、それを受けての久野壱弘のアントニーの演説が、本来感情に訴えるべき情感的なものが出しきれない状態となって、演説の力ではこの場面ではブルータスが優ってしまった感があった。その意味では、高橋のブルータスは聞きごたえとしてはあるが、アントニーの役を食ってしまっていたという点で、もう少し冷静で理性的な面を生かしたブルータスであった方がよかったかもしれない。
これは高橋、久野の両ベテランのバトルであるだけに相手の出方を受けての結果で、一方ではさすがだと感じさせ、また二役の演じ分けも期待通りのものを見せて(聞かせて)くれた。
今回の入場者数は17名で、故荒井良雄先生の奥様もいつも通り参加されていた。
20名も入れば一杯の会場なので、ほぼ満席の状態であったのは喜ばしい限りであった。
出演者のプロフィルとして、演出を兼ねる高橋正彦は、シェイクスピア・シアターの創立メンバーの一人で、渋谷ジャンジャンで数多くのシェイクスピア劇に出演。
久野壱弘は、劇団近代座で多数のシェイクスピア劇に出演し、長年にわたって俳優を続けており、現在「新地球座」の顧問。
今回出演していない「新地球座」の代表、倉橋秀美は朗読劇の他、テレビ出演のほか声優としても活躍している。
2017年の「荒井良雄沙翁劇場」は、奇数月の第3水曜日に阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロンで開催される。


訳/坪内逍遥、監修/荒井良雄、台本構成/高木登、演出/高橋正彦、
1月18日(水)18時30分開演、 阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロンにて、
参加費:1000円(ドリンク付き)

 

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