"横浜山手読書会"を主宰する奥浜那月(ペンネーム)氏の呼びかけで、瀬沼達也氏代表の"シェイクスピアを愛する愉快な仲間たち"のグループが、"横浜シェイクスピア・グループ"(YSG)の協力のもとに、シェイクスピア劇の日英語による朗読会がスタートした。
作品紹介のレクチャーと日本語訳と英語による朗読会という珍しい試みで、レクチャーの中で語ったことによると、瀬沼達也氏はこの話を受けた時、最初は一人でもやろうという、ある意味では悲壮な決意で臨んだが、氏が主宰するYSGのメンバーと、演出主幹を務める関東学院大学の学生たちが参加してくれることになり、総勢8名の出演となった。
冒頭の挨拶の中で、この朗読会を年3,4回行ってシェイクスピア全作品(37作、あるいは40作)を10年で完遂するという熱い決意を語られた。
第一部が30分間のレクチャーで、初回に『夏の夜の夢』を取り上げた意図などを、瀬沼氏の得意なダジャレとジョークを交えながら肩の凝らない講演の後、第二部の日英語朗読劇が行われた。
最初に松岡和子訳による日本語での朗読がなされ、次に同じ場面を英語で朗読するという構成で、途中省略される場面は日本語によるナレーションを入れる事で話の筋が分かるように工夫されている。
個人的な解釈であるが単なる朗読と朗読劇の違いは、朗読が読むだけで所作も何も伴わないのに対し、朗読劇はある程度のパーフォーマンスを伴って劇的雰囲気を作り出す朗読だと解している。
メンバー全員が元々英語で演じてきているだけに、英語による朗読劇の方は今更その力量を評するまでもないが、日本語による朗読劇では、日本語による舞台にも出演している増留俊樹氏は別格として、英語劇の経歴の長いベテランに対して関東学院大学の学生さんたちは新鮮味のある巧さを感じさせてくれた。
そのことを対照的に浮かび上がらせたのが本場の英語を凌ぐ瀬沼氏で、日本語朗読も英語の発声法の癖が抜けず、日本語らしからぬ台詞となっていたことだった(良し悪しということではなく、そのことによる面白さもあった)。
演出家の三輪えり花の言葉を借りれば、朗読劇というより「演読」と言った方がよいパーフォーマンスを見せてくれたのは昨年の関東学院大学英語劇『テンペスト』でエアリエルを演じた清水愛理さん。
彼女はハーミアや妖精を演じたが、表情、所作、台詞は演技そのものとなっていて、特に感心したのは、ライサンダーに置き去りにされ、目覚めた時の台詞。
ライサンダーを呼ぶ声を、木霊が帰ってくるように二重にしたところなどは、臨場感に溢れリアルであった。
そして何よりも素晴らしかったのは、他の人の台詞の時に、ただじっと立っているのではなく、他の人の台詞に合わせて表情を変え、あるいは声を発していたことだった。
『テンペスト』でトリンキュローを演じた佐藤真奈さんはパック、セバスチャンを演じた寺田弥礼さんはヘレナ役を演じたが、清水さんも含め、メイクなしの素顔は3人とも誰が誰だか分からなかったが、それだけ『テンペスト』でのメイクがよくできていた証拠でもあろう。
YSGのベテラン、瀬沼達也氏はシーシアスとオーベロン、小嶋しのぶさんはヒポリタとティターニア、増留俊樹氏はアテネの職人のボトム役を、風格ある朗読力で聞かせてくれた一方、若手の立花真之介君はフルート役でシスビーの声色をうまく使い分けた熱演的演技力が今後のYSGでの活躍にも大いに期待されるものがあった。
ダブルキャストで最初にヘレナ役をした遠藤玲奈さんの所属が分からないが、彼女の落ち着いた台詞は聞きやすく好ましいものであった。
驚きは、全員そろったのが本番の当日で、それまでの稽古は個別であったということで、これもアマチュア集団では致し方ないことであるが、それにしては上出来であったと思うが、熱演の余り、当初の予定時間100分を超えて2時間となり、最後の場面は英語朗読を割愛することになってしまったのが惜しまれる。
今回の日英語朗読について個人的な意見を述べるとすれば、同じ場面を日英語で繰り返すのは筋の展開を中断する形になってしまい冗長な感じがしないでもないので、日本語訳の場面と英語の場面をナレーションでつなぐなどとする方がよいのではないかと思った。
ただこの物語を知らない人にとっては、日本語訳があって英語を聞く方が理解できるという利点はあろうかと思うので、そこは何とも言い難い。
主催者への今後の工夫の一助になればと思い、参考意見として書きとどめて置きます。
全作品朗読劇に、聴衆として全参加することを目標に、今後の楽しみとしたい。
レクチャー講師・朗読劇演出/瀬沼達也
1月8日(日)14時開演、横浜・元町中華街の神奈川近代文学館・中会議室
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