平日のマチネということもあって600席ある観客席の殆どが女性で、男性は10名を数えるほどであった。平日というのにこれだけの席が満席だと言うのは、何処に人気の秘密があるのか自分には解しかねた。
自分にとっては、高いチケット料金を払ってまで観に来ているのは、ただシェイクスピア劇であるということだけで、知っている出演者は横田栄司ぐらいで、主演格の柚希礼音もジュリアンも、演出のマイケル・メイヤーについても全く知らなかった。もっともヒロイン役の柚希礼音はその名前からして宝塚出身であるだろうという予測はついていたが、これまでと同じく、今回も知らないものは知らないまま白紙の状態で事前に何も調べず、未知との遭遇を楽しんで観た。
シアタークリエ10周年記念ということで招聘したマイケル・メイヤーについての知識もなかったが、ミュージカルなど音楽劇を中心に上演しているシアタークリエなので、この『お気に召すまま』も音楽劇になるだろうという予測はしていた。
この劇のコンセプトは、観劇後にインターネットで確認したマイケル・メイヤーの言葉にあるのでそれをそのまま引用すると、メイヤーは1960年代のアメリカに設定し、宮廷の場面はNYの上流社会に、フェレデリックはニクソン大統領をイメージし、主人公が逃げ込むアーデンの森は、1967年、サンフランシスコで開催された10万人のヒッピーが集まったロックフェスティバル"Summer of Love"のヘイトアシュベリーに置き換えられている。
アーデンの森の舞台設定はポップカルチャーのサイケ調で、追放された公爵のもとに集まっている廷臣たちはみなヒッピー風で、公爵自身もセーターにジーンズ姿でラフなスタイルで公爵然としたところがない。
羊飼いのフィービーとシルヴィアスは、羊の代わりにサークルのついた台車に幼児たちを乗せて世話をする保育園の保育士となり、道化タッチストーンの恋人オードリーも、玩具の台車に羊代わりのキャベツを載せて引っぱって回っている。
このアーデンの森の場面は遊び心に満ちており、特にヒロインのロザリンドが変装して男のギャニーミードを演じる場面は、宝塚で男役のトップスターであった柚希礼音ならではの見ごたえのある演技で楽しませてくれる。
彼女の男役の型にはまった所作が決まっていて、宝塚の世界に引き込まれていくようで、さすがだと感心しながら魅入って見た。
保育園児を演じる幼児たちは、最後の大円団、4組の結婚式の場面で、白い衣装に羽根を付けた天使としてカップル全員を祝すが、自分たちの先生であるフィービーとシルヴィアスの結婚を祝しての変装という見方をすれば、また違った味わいも出てくる。
小劇場とは異なった商業演劇としてのサービス精神を楽しませてもらい、普通のシェイクスピア劇とは違った個性的な俳優の演技を味わうことが出来た。
出演者は、ヒロインのロザリンドを柚希礼音、シーリアをマイコ、オーランドをジュリアン(筋肉質な肉体美に驚いた)、メランコリックなジェークィズを橋本さとし、オリヴァーを横田栄司(シェイクスピア劇役者としての台詞力を発揮)、タッチストーンを芋洗坂係長(名前からしてふざけているが楽しい道化役)、老僕アダムを青山達三(酔っぱらいのインチキ牧師とハイメン役をかね、その演技が味わい深い)、公爵とフレデリック(メガネをつけて憎々し気なフレデリックを演じ、メガネを外して温厚な公爵役)を小野武彦、そしてアミアンズを伊礼彼方(歌を楽しませてくれる)、その他大勢。
年明け早々の最初のシェイクスピア観劇は、明るく軽やかな幕開けとなった(チケットが高いのがこたえるが)。
上演時間は、途中20分間の休憩を挟んで2時間20分
翻訳/小田島雄志、演出/マイケル・メイヤー、音楽/トム・キット、美術/松井るみ、
1月5日(木)13時30分開演、日比谷・シアタークリエ、
チケット:11000円、座席:4列10番
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