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2017年の「シェイクスピア劇回顧」と「私が選んだベスト5」

●2017年のシェイクスピア劇回顧

 大劇場の舞台から小劇場での上演、それに朗読劇まで含めて記録しているので、2017年の観劇日記は64本に及んだ。それだけにベスト5を選ぶのにも迷いがあったが、選定は広範囲の中から抽出して選んでみた。
 観劇記録で心掛けたのは、小さな活動にも可能な限り観劇に出かけ、それを拾いあげることであった。その中で特に感じたことは、地道な活動の拡がりであった。
 明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)から発展した井上優准教授が監修する「MSPインディーズ・キャラバン隊」の活動や、10年でシェイクスピア全作品上演の目標を掲げて2017年1月にスタートした瀬沼達也が主宰する「シェイクスピアを愛する愉快な仲間たちの会」(SAYNK)の日英語朗読劇、昨年からスタートしたホースボーン・由美が主宰するシェイクスピア・プレイスハウス(SPH)も着実に年3回の公演を続けており、ユニークな発想で毎回趣向の異なった演出で楽しませてくれている。
 ベスト5にも選んだが、2017年の最大の関心事は蜷川幸雄亡き後の彩の国さいたま芸術劇場でのシェイクスピア・シリーズの上演であろう。
 ベスト5には入れることができなかったが、特筆すべき公演としては、東京芸術劇場プレイハウスでの、ルーマニアの演出家シルヴィウ・プルカレーテ演出による佐々木蔵之介主演の『リチャード三世』や、ベルギー生まれの演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出によるオランダ語による『オセロー』上演も記憶に残るものであった。
 そのような前提条件の中で、ベスト5と特別賞を次のように選んでみた。


●私の選んだ2017年のベスト5(上演順)
1. SPAC公演、宮城聰演出の『冬物語』 (2月) 
宮城聰演が10年ぶりに、スピーカーとムーバーを分けての演出。ハーマイオニの再生の演出にも特徴。
2. ITCL来日公演、ポール・ステッピングズ演出の『十二夜』(5月)
少人数で一人何役をも演じる面白さをいつも楽しみに観させてもらっている。
3. 名取事務所公演、堤春恵作、小笠原響演出の『奈落のシャイロック』(10月)
予想外の展開にストーリーの面白さを味わった。
4. TSC公演、奥泉光作、江戸馨演出の『鏡の向こうのヘンリー八世』(11月)
これまでの<鏡の向こうのシェイクスピア>とは一味異なり、原作とほぼ並行した進行の中で、その裏側を推測した内容に、サスペンス的興味で惹きつけられた。
5. 彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾、吉田鋼太郎演出・主演の『アテネのタイモン』(12月)
吉田鋼太郎が蜷川幸雄の後を受けての第一作。かなりのプレッシャーもあったと思うが、まったくと言っていいほど、人気もなく、上演されることも少ない作品の演出と主演を無難に船出したことを高く評価。
   
●特別賞(上演順)
1. SPH(シェイクスピア・プレイハウス)公演、ホースボーン・由美演出の『音楽怒劇、アテネのタイモン』(4月)
新鮮なアイデアとコンセプトとで、人形を用いてのホースボーン・由美の一人芝居。
2. 3人の女優による『リアの道化と3人の娘』(松岡和子訳で高木登構成)(6月)
ゴネリルの北村菁子、リーガンの倉橋秀美、コーディリアと道化の白井マキの3人に特別賞。
3. 板橋演劇センター公演、遠藤栄蔵演出の『ハムレット』(7月)
54歳でハムレットを演じた鈴木吉行に特別賞。
4. MSPインディーズ・キャラバン隊公演、太宰治作、井上優監修の『新ハムレット』(8月)
出演者全員のエネルギッシュな演技がさわやか。
5. サインアート・プロジェクト・アジアン公演、野崎美子構成・演出の『夏の夜の夢』(11月)
障碍者と普通の人が一体となっての上演に、ただただ感激・感動。

 

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