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  藤井貴大が作る 『ロミオとジュリエット』            No. 2016-061

― キーワードは「夢」と「夜」と「毒」 ―

 音楽だけのせいではなく、マイクを通しての台詞がノイズとして耳に不快に残っていたため、舞台が終った後、劇場を出てからも耳鳴りがして頭がガンガンしていたというのが一番の感想であった。
 大きな劇場での隠しマイクを使っての台詞や、拡声器のようにしてマイクを使う舞台も苦手である。
 今年はいろいろな形での『ロミ・ジュリ』を観る機会があって、今回の藤田貴大の『ロミ・ジュリ』も異色の演出でその意味では興味深いものであった。
 舞台の始まりは、椅子に座ったままの姿勢で、公爵のプロローグの台詞が、台詞に感情の表現を込めることなく語られるが、この舞台の一番の特徴としては、物語を逆からたどっていき、その間にも繰り返しが何度となくあり、行きつ戻りつしながら物語の発端へと遡る演出と、感情表現を抑えた台詞回しと、所作が伴っていないという点にあった。
 主要な登場人物をほとんど全員女性が演じるということで、男優はキャピュレットとティボルト、それに召使いのピーターのみであるのも特徴の一つで、ロミオをはじめとして大半が黒の衣装であるのに対し、ジュリエットは純白の衣装で際立たせていた。
 内容的な特徴としては、キーワードの「夢」があり、ロミオとマキューシオの間で交わされる夢の話で、
 ロミオ 「ゆうべ夢を見た」
 マキューシオ 「俺も見た」
 ロミオ 「どんな夢だ?」
 マキューシオ 「夢を見るやつは嘘をつくって夢」
 というこの会話が何度となく繰り返される。
 この舞台が終わりから始まるということで、夜の世界と、ロミオの服毒自殺と、ジュリエットが「毒薬」ではないかという不安と恐怖を抱く仮死を招く薬の服薬の場面の繰り返しで、「夜」と「毒」もキーワードとなっている。
 キーワードはその他にもいろいろあるが、この物語の出来事が「5日間」であることも絶えず繰り返されるのもその一つとしてあげておいていいだろう。
 舞台は第1章から10章まで区切られ、第1章はずばり「POISON」(毒)であった。
 そして、「SLEEP」や「DEATH」などのタイトルがついた章が続く。
 今一つ、この演出の特徴として、本筋に関係ない、というより全く関係ない話が挿入されている。
 それは「キヨ」という少女の話で、彼女はいじめられているわけでもなく、無視されているわけでもないと語られるが、そのキヨが突然舞台から観客席の方に飛び降りて自殺するが、この物語の挿入の意図がよく分からないが印象として強く残るのも事実である。
 若干26歳で岸田國士戯曲賞を受賞したという新鋭の気負いを感じさせる舞台で発想の斬新さなどあり、印象に残る舞台であったものの、音楽を含めて台詞回しにおけるノイズによる頭痛の為、自分の評価の中で揺れている。
 しかし、忘れ難い『ロミオとジュリエット』の一つにはなるであろうと思う。
 上演時間は休憩なしの1時間40分であったが、このノイズに悩まされて、短いようで長い舞台であった。

 

翻訳/松岡和子、上演台本・演出/藤田貴大
12月18日(日)13時開演、東京芸術劇場・プレイハウス
チケット:2475円(車椅子付き添い)、座席:1階 RB列15番

 

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