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  関東学院大学シェイクスピア英語劇 第65回公演
               『テンペスト』             
No. 2016-059

 シェイクスピア没後400年という100年に一度の記念祭ということで、第65回公演に演出主幹である瀬沼達也氏の思い入れから、シェイクスピア単独執筆最後の作品とされる『テンペスト』が選ばれた。
 その辺の事情については当日配布されたプログラムの織り込みに詳しく書かれているのでここでは省くが、『テンペスト』は2005年にも公演されており、この観劇日記を記すに当たって読み返してみて、今回との比較で改めて興味深く感じた。
 熱演した学生さんたち、そしてそれを支えた制作スタッフの学生さんたちに敬意を表して、最初にアンケートにお答えする形で感想の一端を述べさせてもらう。
1. 全体の感想:(感激度) ★★★★★
 心に溢れる感動と、観ていて楽しかったということで、最高の5つ星。
2. 個々の事項について
① 発音(声量)について: 3+(台詞力=台詞を通しての説得力としての発音・声量をまとめて)
② 演技について: 4 
③ 音響・効果について: 4
④ 衣装について: 4(プロスペロー、エアリエル、キャリバン、その他、造形する登場人物のコンセプトによくマッチさせていて大変良かった)
⑤ 照明について: 4(感情の変化に伴っての照明の色をタイミングよく変え、心理的変化をよく表していた)
⑥ メイクアップ: 4(登場人物のコンセプトをよく表出したメイクで、見ているだけで観ていて楽しい)
⑦ 小道具・舞台について:4(舞台装置全体については、岩屋を想像させる半円のドーム、エアリエルの手枷のブレスレット、キャリバンの首枷の白い荒縄など、象徴的な小道具で演出のコンセプトを的確に表出していてよかった)
⑧ 劇中の解説・字幕について:字幕が見にくい位置の2列目の席で、全く見ていないのでコメントなし。
 この英語劇ではこれまでにも劇の始まる前に、登場人物が劇の内容を、時にはコント風に仕立てて説明したりしてきたが、今回はエアリエルを演じる俳優が物語の概要を語って、ごく自然な形で観客をそのまま劇の雰囲気に引き込んでいった。
 エアリエルは水色と白の衣装で、空と風のイメージを感じさせることから、その名が示す通り、四元素の中の「空気」を表象し、バレーシューズで軽やかな所作で動き回り、その役を演じたアイリ・シミズさんの歌声が美しく、英語の発声もさわやかで、観ていて心も軽やかになる気分であった。
 嵐の場面では、エアリエルが水色のフィルムのような布で荒れ狂う海を表象し、舞台奥の岩屋の上からプロスペローがその様子を一部始終見つめている。
 演出主幹のコンセプトもあって、このエアリエルには『夏の夜の夢』のパックを思わせる所作があり、それに対するプロスペローがオーベロンに見えてくるのも興味深いものがあった。
 演出主幹の演出ノート「なぜ今『テンペスト』か?」の結びに「始めよければ半ばよし、終わりよければすべてよし」とあるが、まさしくその通りでこの始まりで観客を引き付けることで、もうこの劇の半分は成功していたといえる。
 そして「終わりよければすべてよし」で、終わり方も素晴らしい演出であった。
 プロスペローから解放され、自由の身になったエアリエルは束縛の象徴である手枷のブレスレットを手から外し、それを舞台上に照明で描かれた円の中に置き、キャリバンも白い荒縄の首枷を首から外してその横に並べて置き、自由の喜びをかみしめる。
 最後に、プロスペローが手にしていた魔法の大きな木の杖を半分に折り、魔法の本と一緒に、手枷と首枷に並べて置く。
 プロスペローのエピローグの最後の言葉'Let your indulgence set me free'は、彼自身も実は束縛の中にいたことを想起させるもので、『テンペスト』の主題の一つでもある「赦し」と「和解」によって、プロスペローは「心の束縛=魔法の世界」から自由の身となったことを感じさせた。
 ハイライトとなる楽しい場面がいくつかあったが、その中でも、トリンキュローとステファノーとキャリバンの3人組が歌って踊る場面や、アイリス、シーリーズ、ジュノーの仮面劇の場面が特に印象的であった。
 出演者の顔ぶれとしては、1年生が7名で、2年生は一人もおらず、3年生が3人、4年生が一人の総勢11名。
 貫禄あるプロスペローを演じたシンジ・スズキ君とエアリエルを好演したアイリ・シミズさんはともに1年生。上級生が少ない分、1年生の皆さんが頑張っていた。
 トリンキュローを演じるマナ・サトウさん、キャリバンを演じるナツキ・タカハシさん、ミランダのモエコ・キタイさんが3年生でともに1年生の時から出演しており、ただ一人4年生のヨウイチ・フクワキ君も4年間ずっと出演している。
 サトウさんとタハシさんは、道化的な役を楽しんで演技をしているのが伝わってくるようで見ていても楽しかったが、特に、トリンキュローのサトウさんは観客席の最前列まで降りての観客サービスで楽しませてくれ、同じく3年生のキタイさんも落ち着いた演技で、みなさん3年間の成果を十分に発揮しておられた。
 プロスペローの弟アントーニオを演じたフクワキさん、4年間ご苦労様でした。プロスペローの「赦し」の後、全員が岩屋に入るのに最後まで残って、和解を受け入れていない表情がとても印象的でした。
 昨年1年生で3名出演した2年生が一人もいなかったのは残念であったが、伝統を継承していくうえでも、ピラミッド型の構成で構わないので各学年が揃うことを願ってやまない。
 いつものことであるが、最後に出演者以外にも制作スタッフも参加しての肩を組んでの合唱にはいつも感動で心を揺さぶられる。
 今回も、感動を与えてもらったことに、感謝!感謝!!
 上演時間は、休憩なしの2時間。

 * 出演者の名前は、プログラムではローマ字表記であるがカタカナに変更して記した。


12月10日(土)12時30分開演、神奈川県民共済みらいホール

 

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