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  新国立劇場公演 『ヘンリー四世』二部作 一挙上演
            第一部 「混沌」、第一部 「戴冠」       
No. 2016-055

 『ヘンリー四世』二部作を一日で一挙に観劇。
 第一部が12時開演で3時間の上演、2時間半の空き時間をおいて17時間半から第二部が3時間10分、いずれも途中20分間の休憩時間。
 一部と二部にそれぞれサブタイトルがつけられ、内容のコンセプトが明示されているのは『ヘンリー六世』三部作と同様で、分かりやすくてよいと思う。
 開演前に目を通したプログラムの演出者の鵜山仁と山崎清介との対談に、「キングになるということは、基本的人権を喪うこと」という鵜山仁の言葉に目を開かされる思いがした。
 今話題になっている天皇の退位問題で、天皇にはまさにこの個人としての基本的人権がないのだということに気づかされ、衝撃的でもあった。
 角材を組み合わせた舞台装置の規模の大きさにまず目を見張らせられるが、舞台下手の前方には赤土色をした砂を入れた砂場があり、舞台中央は中央部に5M四方ぐらいに見える平板、その周囲にはその半分ほどの4枚ほどの矩形の平板が取り囲み、舞台後方部は、銀色に鈍く輝く砂丘のような起伏が拡がる。この矩形の板は、第二部の終盤になって中心の平板にくっつけられて一体化され、より大きな盆となる。
 舞台装置の大きさと呼応するように、出演者の数も26名と多勢多彩である。
 「第一四部作」の『ヘンリー六世』、『リチャード三世』と同じスタッフ、キャストで上演されることで、一貫性だけでなく、キャスティングからくる懐かしさから親しみをも感じさせた。
 一部の冒頭部、第1幕第1場の宮廷の場面では、白い衣装を身にまとったヘンリー四世が舞台中央に置かれた白い椅子に腰かけて長い独白を語るが、その周囲には貴族たち以外に、イーストチープの居酒屋の登場人物たちも、思い思いの場所で、事の成り行きを傍観している、という趣向を凝らしている。
 二部の冒頭部、ノーサンバランド伯の城の前、プロローグの「噂」の場面は6人の俳優が演じ、直後の第1場でその噂を演じた鍛冶直人がヴァーノン卿、小長谷勝彦がモートンの役に変じて登場する。
 浦井健治が演じるハル王子は、耳にヘッドホンを付け、音楽を聴いている今風のヤンキー姿であるが、王位を継いでヘンリー五世となった時、ヘンリー四世と同じ白の衣装を身に着けることで、その対照性が鮮明で強烈な印象を与えた。
 佐藤B作のフォルスタッフは一部、二部を通して存在感を表すが、一方で、第一部は岡本健一が演じるホット・スパーの演技が特に印象的で、二部ではハル王子は少し後ろに引き込んだ感じとなり、二部の面白さはグロスターシャーの地方判事シャローとサイレンスとの間に繰り広げられる酒宴の場が見もので、特にサイレンスを演じた綾田俊樹の酔っぱらった演技や、シャローの召使いデーヴィをポインズをも演じる有薗芳記がシャローやサイレンスと同じく年寄りとして演じたのが面白く感じられた。
 『ヘンリー四世』では普通フォルスタッフとハル王子の影に隠れて存在感が薄く感じるタイトルロールのヘンリー四世を中嶋しゅうが演じ、鮮明な印象と存在感を感じさせた。
 これは7年前の『ヘンリー六世』三部作上演でも、タイトルロールのヘンリー六世に感じられた存在感と同じで、ここに演出者の一貫したテーマ性を感じた。
 第一部でモーティマーの妻がウェールズ語で話す場面(原作にはその台詞は出て得来ないが)があるが、そこでモーティマー夫人が同じくウェールズ語で歌も歌うが、その出典は何であろうか。
 ケルト語は音楽的で耳に美しく聞こえ、同じ系統のアイルランド語なども小鳥のさえずりのように感じるのだが、今回の短い台詞は本物のケルト語であろうか。
 出演者それぞれ特色のある俳優で、内容も去ることながら、その演技自体を楽しんで観ることが出来る。
第一部でホット・スパーを好演した岡本健一は、第二部でピストルを演じ、女優陣では、那須佐代子がノーサンバランド伯夫人とクイックリーの二役、松岡依都美がパーシー夫人とドル・ティアシーの二役と、それぞれ対照的な役を演じ分けた演技も見ものであった。
 その他の主だった役では、ウェスモーランド伯の水野龍司、ウォリック伯/ウスター伯の下総源太郎、ノーサンバランド伯の立川三貴、ブラント/ヘースティングズ卿の田代秀隆、高等法院長/騎士ヴァーノンの今井朋彦、ヨーク大司教の勝部演之、地方判事シャロー  を演じるラサール石井など、演技の楽しみどころ満載であった。
 二部の反乱軍首謀者3人を約束事を誓った覚えはないと言って逮捕するランカスター公ジョンを演じた亀田佳明もクールさを感じさせた。
 観劇当日は平日ということもあってか、第二部の夜間の部は開演時間も中途半端の時間帯のためか、S席の空席は3分の1ほどあったように見えた。
 余分な解釈・批評は自分には不要で、エンターテイメントとして楽しんで観ることが出来た。


翻訳/小田島雄志、演出/鵜山 仁、美術/島 次郎、
12月1日(木)第一部:12時開演、第二部:17時30分開演、新国立劇場・中劇場、
チケット:(S席)各7600円(通し券、シニア)、プログラム:1000円
座席:(第一部)1階13列24番、(第二部)1階12列23番

 

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