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  板橋区民文化祭・演劇のつどい2016、その2
          板橋演劇センター公演 『テンペスト』        
No. 2016-043

 今年4月、シェイクスピア全作品37作上演を成し遂げた後の最初の公演が、シェイクスピア単独の執筆として最後の作品である『テンペスト』というところに、主宰者であり、演出者、そして出演者でもある遠藤栄蔵氏の思い入れがあるように感じた。主役のプロスペローは、遠藤栄蔵。
 エアリエルを二人のダンサーと8人の男女の俳優たちに演じさせ、多くの若い人たちを多く出演させていたことも注目されたが、登場人物にないアントーニオの息子に、ダブルキャストで二人の若い女性を出演させているのも珍しい試みであった。
 冒頭部の嵐の場面をどのように演出するかも興味の一つであるが、最初にプロスペローが舞台中央に登場し、手にした長い棒を振り上げ嵐を呼び起こし、舞台上手の袖に身を引いて、嵐の光景を静かに見守っている。
 水夫長が必死に船を操るなか、ダンサーのエアリエルやその他のエアリエルが白い布をなびかせながら、舞台を左右に横切っていく。
 これはあとでエアリエルがプロスペローに報告する、船のあちこちに火をつけて回ったという台詞を視覚化した初めて観る演出で、非常に面白いと思った。
 異様で、意外な演出は、キャリバン。丸剃りした坊主頭で、その衣装は、ラマ僧のような仏教徒を思わせる衣で、これまで観てきたキャリバンとはおよそイメージが外れていた。
 一番印象的であったのは、プロスペローとキャリバンの別れの場面で、プロスペローはキャリバンを愛おし気に抱擁して別れる。この演出には遠藤氏の優しさを見る思いであった。
 キャリバンは、プロスペローの最後のエピローグの台詞まで傍らに忠実な犬のように付き添う。
 今回の舞台では、出演者の関係もあってか女性陣の活躍が目立ち、男役のファーディナンドに津田なつ子、道化役としてのトリンキュローに岩畑里沙、ステファノーに酒井恵美子など女性が演じたのも特徴の一つであった。
 ベテラン勢としては、異様な面相を感じさせる森奈美守のナポリ王アロンゾー、プロスペローの弟アントーニオの古谷一郎、ナポリ王の弟セバスチャンの深澤誠などの演技が印象に残った。
 台詞の発声などに聞き取りにくい部分もあったが、観終わった後、演出者の心温まる優しさを感じる舞台であった。

 

訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵、10月9日(日)14時開演、板橋区立文化会館小ホール

 

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