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  加藤健一事務所公演 『ハリウッドでシェイクスピアを』       No. 2016-036

― 映画『夏の夜の夢』の撮影スタジオから ―

 アテネで3組の結婚式を祝福し、オーベロンとパックが妖精の国魔法の森に帰る折、呪文を間違え、時空を超えて、映画『夏の夜の夢』の撮影が始まろうとしている1934年のハリウッドのスタジオにたどり着いたところから始まる。ハリウッドを、「モチノキ(ハリー)の森(ウッド)」と「魔法の森」に間違えての失敗であった。
 ナチスの台頭でアメリカに亡命したオーストリアのユダヤ人で演出家のマックス・ラインハルトが、ワーナー・ブラザーズのジャック・ワーナーにシェイクスピアの『夏の夜の夢』を映画にしたいと口説くが、商業路線に乗らないと断られるが、そこへジャックの恋人リディアがもっとましな映画に出たいとラインハルトの話に乗り、ヘレナ役で出演することで話がまとまってしまう。
 ところがそのリディアは、シェイクスピアがどこの国の作家で、いつの時代の作家かも知らないだけでなく、台詞の意味も全く理解できず、あげくのはてはシェイクスピアの台詞は前から読んでも後ろから読んでも一緒だと気づいたと、さも大発見したように言うが、要はどちらから読んでも意味が分からないと言う始末である。
 撮影が始まったところで、オーベロン役とパック役の俳優が降板してしまったちょうどその折に、本物のオーベロンとパックが登場し、映画の出演が決まってしまう。
 オーベロンはそこでハーミア役の新人女優オリヴィアに一目惚れしてしまい、オリヴィアもオーベロンに恋心を抱く。ところが、ライサンダーを演じる人気俳優のディック・パウエルもオリヴィアに恋して、その恋の取り持ちをオーベロンに頼むことから話がややこしくなっていく。
 オーベロンがパックに取ってくるように命じた惚れ薬の花の汁が、映画界のスターたちの目に次々とかかり大騒動を引き起こす。
 シェイクスピアの作品には卑猥な語や卑猥なシーンが含まれており、それをアメリカ版の映倫責任者ウィル・ヘイズがその部分の削除・修正を求めて来るが、ラインハルトは頑として応じない。
 頑固一徹で理解を示さないヘイズも惚れ薬の花の汁が目に入ってしまい、あろうことか鏡を取り出して自分の顔を最初に見てしまい、そのために自分に恋してしまう。
 オリヴィアと彼女に恋しているディックは、劇中劇でシスビーを演じる女装したフルート役のジョー・ブラウンを、目覚めて最初に見たことから、二人がジョーをめぐって奪い合いとなる。
 パーティでの乱痴気騒ぎの後、オーベロンとパックが妖精の世界に戻らねばならない時間が迫って来て、惚れ薬を解く花の汁を一同にかけ、その一方でオリヴィアには惚れ薬の花の汁をかけ直し、ディックを呼び寄せて彼の恋を実らせる。
 ジャックはリディアにプロポーズし、二人はめでたく結ばれる。
 そして、降板したオーベロン役とパック役の俳優も復帰することになり、すべてが丸く収まる。
 劇の展開のプロセスを楽しむことがすべてのこの劇を、概要をくどくど書いてもその面白さの一端も伝えることが出来ない。
 とにかく、遊び心満載で、楽しく、面白い、その事だけでも十分で、実在の映画をバックステージに、シェイクスピアの『夏の夜の夢』を二重に楽しむことができた。
 加藤健一事務所公演としてはめずらしく大勢で12人もの俳優が出演、オーベロンには加藤健一、パックに加藤忍、フルート役のジョー・ブラウンに花組芝居の植本潤、マックス・ラインハルトに小宮孝泰、ジャック・ワーナーに文学座の粟野史浩、オリヴィアに瀬戸早妃、リディアにナイロン100℃の新谷真弓、ボトム役のジミー・キャグニーに土屋良太、ウィル・ヘイズに奥村洋治、ジャックの秘書ダリルに永岡卓也、ディックに丸山厚人、レポーターのルーエラに日下由美。
 上演時間は、途中15分間の休憩を挟んで2時間20分。

 

作/ケン・ラドウィッグ、訳/小田島恒志・小田島則子、演出/鵜山 仁
9月5日(月)14時開演、 下北沢・本多劇場、チケット:5400円、座席:C列11番

 

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