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  島村抱月脚色・台本に基づく 『クレオパトラ』          No. 2016-034

― 「平成妄想編」と 「大正浪漫編」の2編を観る ―

 明治大学シェイクスピア・プロジェクト出身者(OB)と現役が、MSP(「明治大学シェイクスピア・プロジェクト」の略)インディーズ・シェイクスピアキャラバンと称して、井上優明治大学文学部准教授総監修のもとに、第1回公演として島村抱月脚色台本に基づく『クレオパトラ』を、抱月への挑戦状として「平成妄想編」と、抱月への敬意を込めて「大正浪漫編」の2編を一挙に上演。
 MSPインディーズとは、MSPの活動を超えて、シェイクスピアをもっともっと遊びたいということで組んだキャラバン隊の意で、MSPのシェイクスピア公演は2010年・第7回公演『夏の夜の夢』から毎年欠かさず観てきたが、その質の高さにいつも感心させられていただけに、今回の公演も観る前から非常に期待していたが、その期待に違うことなく大満足した舞台であった。
 シェイクスピアをもっともっと楽しむという点においても大いに満足した舞台であったが、何よりも素晴らしいのは、これまで埋もれていた島村抱月のこの作品を現代に蘇らせたことにあると思う。
 非常に貴重な企画であり、今後のMSPの活動範囲にも期待できるものを感じた。
 自分が今回観た舞台は、順番として「平成妄想編」、次に「大正浪漫編」で、結果としては自分にとってこの順番で観て正解であったように思う(3日間の公演は日替わりで順番が入れ替わっている)。
 「平成妄想編」は、言葉の上でも現代の若者たちの日常語で、タメ口あり、ニャンニャン言葉ありと、昭和世代の自分にはいくぶんノイズに聞こえる部分もあったが、何よりその新鮮な若さあふれる演技がよかった(両方の舞台に共通して言える)。
 舞台構成は、セミ・リーディングという形式をとり、立ち稽古の段階の状態で進められ、場面ごと、幕ごとに演出者の指示が入れられることでその雰囲気を出すという手法を取っている。従って、衣装も役柄に関係なく軽装で、ラフな格好である。
 シェイクスピアの原作『アントニーとクレオパトラ』は、その数ある作品の中でも場面展開の最も多い作品であるが、島村抱月版では場所をクレオパトラの宮殿内に留めて展開しているので、テンポも調子よく進み、内容的にもすっきりしていて非常によかった。今後の原作の上演にも考慮に入れてもよいのではないかと思った。
 この舞台の特徴の一つでもあり、重要な役柄でもある「使者」は、コロス的な役目をも務め、舞台の展開の説明役的な存在でもあるが、その使者を巧みに演じたのは丸山港都君。
 キャストですぐ目についたのが、フェロー役の橋口克哉君、その体格と風貌から覚えやすいという点では得をしているが、2012年の『お気に召すまま』ではアミアンズを、13年の『ヘンリー四世』ではフォルスタッフを演じていたのが印象に強く残っているが、今回も大奮闘の演技で楽しませてくれた。
 ヒロインのクレオパトラは、10年の第7回公演『夏の夜の夢』で芥子の種を演じた金原並央さんが好演。
 05年の第2回公演『マクベス』でタイトルロールを演じた西村俊彦さんが、アントニーを熱演。
 このヒロインとヒーローのニャンニャン遊びの絡み合いが見せどころの一つでもあった。
 台本の再脚色と演出は、11年に『冬物語』を演出した川名幸宏君。
 「平成妄想編」の上演時間は、休憩なしで約1時間40分。
 「大正浪漫編」は、時代背景もあって趣もガラッと変わって、アントニーの部下たちは学生服のバンカラスタイル、アントニーは着物に袴姿、一方のクレオパトラは赤い柄模様の着物姿で、侍女たちはカフェの女給のような白いエプロンを付けた着物姿。
 アントニーとクレオパトラの関係を「平成妄想編」との対比で観ることが出来、二重の楽しみを味わった。
台詞の面では、「平成版」とは異なって聞き覚えのある原作の台詞が多く聞かれ、原作の味わいと香りを残しているように感じられた。
 キャストでは、13年の『ヘンリー四世』でグロースター公などを演じて注目していた大津留彬弘君がイアロスを演じたが、彼は現在"カクシンハン"の舞台に立ってプロとして活躍中。
 ヒロインのクレオパトラを演じたのはまだ現役の長野有美さん、彼女は13年の『ヘンリー四世』でパーシー夫人、14年の『道化と王冠』でフォルスタッフの部下ピストル、15年の『薔薇戦争』ではマーガレットを演じており、今年が最終学年。
 劇団Three Quarter所属の正木拓也さんがアントニーを演じ、「平成版」とは一味違う貫録を見せた。
 「大正浪漫編」の潤色監修は井上優准教授、演出は13年に『ヘンリー四世』を演出した新井ひかる君。
 上演時間は、約1時間30分。
 初日のこの日、劇場は満席で大盛況であった。
 両方に共通して言えることとして、演出、台本潤色、演技とも、斬新でフレッシュさを感じさせ、さわやかなものであった。今後の活動にも大いに期待!!

 

8月26日(金)、「平成妄想編」16時開演、「大正浪漫編」19時開演、早稲田小劇場どらま館

 

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