カフカ原作の『審判』とシェイクスピアの『マクベス』の2本立て公演。
『審判』は主人公ヨゼフ・Kを日本マイム研究所所長の佐々木博康が一人で演じ、引き続いてマイム研究所の塾生と所長7人によりシェイクスピアの『マクベス』が上演された。
『審判』はストーリーを演じるのではなく主人公のヨゼフ・Kの心理状況を演じるもので、照明によるシルエットが効果的にその心理状況を物語っていた。
わずか10分間の演技であるが、緊張感の漂う濃密な舞台を作り上げていた。
台詞劇であるシェイクスピアをパントマイムで演じるということに大いに関心が湧いて期待して観た。
50分足らずの上演時間であったが、『マクベス』のハイライト部分がうまく構成されていて、原作との対比でも興味あるものであった。
3枚の大きな衝立を使って、場面転換や人の出入りにうまく活用し、舞台進行の流れをスムースに展開していた。
冒頭部は戦闘場面で始まり、上手と下手の両側から3人ずつの兵士が交錯して往来し、戦闘の状況を描く。
マクベスとバンクオーが戦闘に勝利し、ダンカン王のもとに参上して祝福される。
二人が魔女に出会うのは、ダンカン王がマクベスの城を訪れる際、二人が先に出かける途中で遭遇する設定となっていて原作との順序が入れ替わっていた。
バンクオーの子孫が王になるという魔女の予言の場面は、フリーアンスが登場して彼の頭上に王冠が載せられるという所作がなされ、台詞がなくともストーリーを知っている者にとっては状況が分かりやすかった。
ダンカンがマクベスの城を訪れて祝宴が開かれる場面は、短い上演時間の中でもかなり強調されて演じられ、ダンカン殺害の場面は、衝立に赤い布切れがかけられることで表象された。
ダンカンが登場する場面では、マクベスがねじを巻いてからくり人形を衝立から浮かび上がらせるようにして首から上を出させ、引き込むときもねじを逆に巻いて引き下ろしていくという遊びの趣向が面白い。
バーナムの森が押し寄せてくる場面は、3枚の衝立を使ってマクベスを襲うように彼の背後に迫ってくるのがリアルに感じられ効果的であったと思う。
マクダフとの一騎打ちでマクベスは敗れ、黒装束の4人が一斉に手にした物体をマクベスに投げつけると、手元から離れたその物体は蜘蛛の糸のように拡散してマクベスの体中にまとわりつく。
その時、4人の黒装束の人物もその他の人物もストップモーションとなって動きが静止し、マクベス一人が絡みついた蜘蛛の糸にあらがった所作を続け、そのまま静かに舞台は暗転して終わる。
佐々木博康がマクベスを演じる以外、その他の出演者は複数の役を演じるが、代表的な役としてはマクベス夫人に研究所OBの長原弘枝、バンクオーに鈴木睦海、ダンカンに石井麻衣子、マクダフに水澤良平、医師に池田郁子、フリーアンスに多々良巴菜が演じた。
パントマイムという新しい形態でのシェイクスピアを楽しむことができた。
演出/佐々木博康、照明/板谷静男
7月12日(火)18時半開演、江戸東京博物館ホール、チケット:3000円、全席自由
|