高木登 観劇日記トップページへ
 
  横浜シェイクスピア・グループ(YSG)第13回公演
           『ペリクリーズ ータイアの領主―』        
No. 2016-027

 シェイクスピア没後400年を記念してYSGが『ペリクリーズ』を選んだのは演出者の言によると、参加者メンバーの顔ぶれが決め手であったと「演出ノート」に記されているが、日本では上演されることが少ない作品であるだけに貴重な上演として楽しませてもらった。
 主人公のペリクリーズを4人で演じる構成については、タイトルロールの台詞の量が多いので、稽古時間その他の制約から一人で演じるのは無理だろうという発想が第一の理由としてあげられていたが、その制約条件がむしろ演出の構成にプラスに働いてよい効果をあげていたと思う。
 シェイクスピアの作品では、タイトルロールの台詞というのはいずれも分量が多く、版本にもよるが『ペリクリーズ』では全体で2464行あり、そのうちペリクリーズの台詞は一番量が多く、609行で全体の4分の1をしめ、次に多いのがプロローグ役の詩人ガワーの台詞で308行ある。
 『ペリクリーズ』という作品は、場所が多岐にわたるだけでなく、時間も20年近くにわたるもので、その点でもペリクリーズ役を4人で演じる構成は無理がなく、効果的でもあった。
 しかも時間と共に年齢層の上の者が演じるということで、観る側としても自然に感じさせただけでなく、英語の台詞力という点においても、経験量からあとに演じる者ほどうまくなっていた。
 4番目に演じる座長の瀬沼達也氏は別格にして、2番目に演じた三井淳平君、3番目の細貝康太君は、関東学院大学の英語劇出演の頃から観てきているので、その英語力、台詞力の上達ぶりに感心しながら観た。
 最初にペリクリーズを演じた海老塚裕也君は、自分の記憶にないので演技力についてはこれまでと比較できないが、彼はデザインが専門ということで、衣裳、舞台装置、小道具などに大いなる力を発揮している。
 4人で演じるということで観客に戸惑いを起こさせないためにも衣装面に気を使って統一した色(薄い緑色)にし、それだけでなく次のペリクリーズ役にバトンタッチする際に、ショールのタスキを渡して役の引継ぎをするという工夫を凝らしている。
 ペリクリーズの妻となるタイーサも二人で演じ、最初を若手の杉山由起さん、2番目をダイアナの巫女として仕えるタイーサをダイオナイザーをも演じるベテランの小嶋しのぶさんが演じて、時間の経過を感じさせるものにしている。
 演技面では、劇の進行役を務めるガワーを演じた福山希望さんの演技は堂々としたもので、英語劇といいながらもこの役では終始日本語で演じられるので、英語が不得手な観客にとっては全体の内容がよく掴めてよかったのではないかと思う。
 ペリクリーズの娘マリーナを演じた関東学院大学在学中の金森江里子さんの英語の台詞は聞きやすいだけでなく、本当にうまくなったと思う。劇中で歌ったソネット18番にも聞きほれた。
 それぞれ何役も演じる、森川光、斉藤佳太郎、立花真之介、遠藤敬介君らの若手陣の溌剌として楽しんでいる演技は観ていても非常に楽しかった。
 飯田綾乃さんは女郎屋の女将役が目立って、マリーナの乳母リコリダの二役をしていたのにはキャスティングの一覧を見るまで気づかなかったほどだった。
 クリーオンを演じた鴨下実、サイモニディーズを演じた増留俊樹にはベテランの風格を感じさせるものがあって、味わい深かった。
 前回の公演でも感じたことだが、このところYSGにはベテランの復帰や、若い人たちが多く参加するようになって活気を感じる。
 裏方として衣装・小道具・音響などに若い人たちが積極的に携わっているだけでなく、そのご家族までが一致協力して手助けされていることに敬意を表したい。

 

演出/佐藤正弥、6月19日(日)13時開演、山の手ゲーテ座にて公演

 

>> 目次へ