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  野村萬斎の構成・演出・主演 『マクベス』             No. 2016-023

 ― 三度目の再演でマクベス夫人のコンセプトを変える ―

 2010年の初演、13年の再演を観、14年のシアタートラムでの3度目の公演については見逃しているが、今回で3度目の野村萬斎の『マクベス』を観ることになる。
 自分の観劇日記を読み返してみても、この3度の公演は単なる繰り返しでなく、常に新しい工夫がなされていて、内面的にも深まっており、その深化(進化)のあとがうかがえる。
 それは舞台美術や音響(音楽)にも表れており、特に舞台装置は基本的には再演時に用いた装置を今回も応用しているが、3回とも異なっていて演出のコンセプトの変化を感じさせる。
 張り出し舞台の客席側には福島原発の汚染土を封じた土嚢のような鉛色のコンテナバッグが並べられており、舞台上には中心が真円にくり抜かれたやや台形型の衝立のようなものが設置され(この衝立は多用され、魔女たちの大釜としても使われる)、その周囲にコンテナバッグが半折にされて4個ほどぽつねんとして散在している。
 あえて「福島原発」の言葉を入れたのは、コンテナバッグに込められた表象的な意味合いを感じたからである。
 舞台は闇の中の激しい雨音の中から始まり、やがて雨足が弱まりあたりがうっすらと明るくなると、それぞれの半折のコンテナバッグからミノムシがさなぎから脱皮するようにして、3人の魔女が抜け出してくる。
 マクベスとマクベス夫人以外は、魔女役の3人が劇中のその他の登場人物を巧みに演じ分けるのはこれまでの演出と変わらず、出演者もマクベスの野村萬斎、3人の魔女役の高田恵篤、福士恵二、小林桂太はこれまで通りだが、マクベス夫人のみがこれまでの秋山菜津子から鈴木砂羽に変わっている。
 高田、福士、小林ら3人がそれぞれ複数の登場人物を早変わりで見事に演じるだけでなく、その身体演技も素晴らしいといつもながらに感心した。
 マクベス夫人に鈴木砂羽を迎えた理由としては、これまでの悪女としてのマクベス夫人ではなく「愛情にあふれ、相手を思いやれる女性」として浮き彫りさせたいという萬斎の思い入れによるという。
 このマクベス夫人に対するコンセプトですぐに思い出したのは、ジャスティン・カーゼル監督による映画『マクベス』のマリオン・コティヤールが演じた涙を流す人間味のあるマクベス夫人であった。
 鈴木砂羽演じるマクベス夫人にはそのような強烈なインパクトを感じさせるものではないけれど、夫を叱咤する表面上の強さの中にも、夫への清楚な愛情を感じさせる新鮮なマクベス夫人を感じた。
 前回までの公演の記録に残していないので今回初めての演出かどうかは記憶にないが、特に気を引いたのは3人で門番役を演じて、チャンチキ音頭のような節と踊りの所作を入れた遊びの演技の場面であった。
 舞台として用いていた布でマクベスを覆って土と化す演出は、前回までの演出と同じで印象的な終わり方であった。
 今回はこれまでと異なりS席ではなくA席で3階席であったが、意外とよく見えたこともあって俯瞰的に全体の様子を楽しむことが出来た。
 尺八、津軽三味線、桶胴太鼓の和楽器による生演奏も和様舞台によく調和し、舞台全体としては、簡素でありながらも多様性のある様式美を楽しむことが出来た。
 【私の感激度】 ★★★★★

 

翻訳/河合祥一郎、構成・演出/野村萬斎
6月15日(水)19時開演、世田谷パブリックシアター
チケット:(A席)5000円、座席:3階B列35番、プログラム:1000円

 

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