― シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」に譬えられる ―
シェイクスピア以外のエリザベス朝演劇では日本で最も数多く上演されている演劇の一つで、プログラムに記載されている記録からすると、1970年以降これまでに主な公演は8回上演されており、最近では2013年、演劇集団円の立川三貴演出での上演があった。
この作品はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に譬えられ、登場人物のジョバンニとアナベラの兄妹がロミオとジュリエット、ジョバンニの師たる修道士ボナヴェンチュラは修道士ロレンス、アナベラの養育者プターナは、『ロミ・ジュリ』では名前のない乳母で、構成上も似通っているが、内容的には兄妹の近親相姦で、美しいというよりはおぞましい。『ロミ・ジュリ』の脇筋としてはマキューシオとティーボルトの死があるが、『あわれ彼女は娼婦』ではもう少し複雑な脇筋が入り組んでいる。
アナベラと結婚する貴族のソランゾには以前ヒポリタという恋人がいて結婚まで約束していたが、彼女が夫をだまして死に至らしめると、彼女を捨てた上アナベラに求婚する。ところが死んだはずの夫リチャーデットは、ソランゾに復讐するため医者に扮装して姪とともにパルマに戻って来る。
少し知恵の足りないアナベラの求婚者の一人であったバーゲットは早々とアナベラを諦め、リチャーデットの姪のフィロティスと恋仲になって結婚しようとするが、リチャーデットが復讐のための手段に利用しようとしたもう一人のアナベラの求婚者であるローマ市民のグリマルディのために、ソランゾと間違えられて闇討ちにあって殺されるという不幸な結末を迎えるが、全体的に陰惨で暗いこの劇の中でわずかな救いは、この愚かなバーゲットと召使いのポジオの二人の笑いを誘う会話と所作であった。
ヒポリタはソランゾに騙された復讐のためにソランゾの召使いヴァスケスをたぶらかして味方に引き入れるが、逆に騙されて自分が用意した毒薬で、ソランゾの結婚式の祝宴の場で死ぬことになる。
アナベラがソランゾと結婚したのは愛情からではなく、兄の子を身ごもったためにその体面を保つためであったが、すぐにそのことが分かってしまい、ソランゾの激しい復讐が始まる。
舞台装置がきわめて象徴的で、舞台上に巨大な十字架が描かれ、登場人物はそれを通路に使ったり、演技上の舞台として使用したりするが、それは時に血のような深紅の色となったり、どす黒い赤色となったりと変化する。
舞台は張り出し舞台の構造であるが、奥行きが深く、ホリゾントの使い方が印象的で、十字架上の通路の奥に光線で真っ白な細長い矩形を形作ったり、横長の舞台となったり、場面ごとに形も色調も変化させることでその場の情景の心象風景を映し出しているかのようであった。
ジョバンニとアナベラが、これが最後と覚悟を決めて抱擁し合う場面では、舞台上での実際の動きと共に下手側の壁面に二人の情景のシルエットが映し出され、これもまた心象風景的で造形的な美として印象的に感じた。
作品の内容そのものはおぞましくて好きになれないテーマであるが、舞台構成そのものは素晴らしいと感じた。
出演は、ジョバンニに浦井健治、アナベラに蒼井優、二人の父親デアルフローリオに石田圭祐、修道士ボナヴェンチュラを大鷹明良、ソランゾに伊礼彼方、その召使いヴァスケスを横田栄治、リチャーデットに浅野雅博、バーゲットに野坂弘、その召使いのポジオに佐藤誓など。
上演時間は、途中休憩20分を挟んで3時間5分。
原作/ジョン・フォード、翻訳/小田島雄志、演出/栗山民也、美術/松井るみ
6月10日(金)13時開演、 新国立劇場・中劇場、
チケット:(A席)5130円、座席:2F1列39番、プログラム:800円
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