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  カクシンハン公演 『ヘンリー六世三部作』              No. 2016-014

第一部「二つの国」、第二部「二色の薔薇」、第三部「二人の王」

 「薔薇戦争」四部作、『リチャード三世』と『ヘンリー六世』三部作を連続して実質6時間での上演で、今回その後半の公演である『ヘンリー六世』三部作を観た。
 これまで『ヘンリー六世』三部作一挙上演というのは、国内では新国立劇場で鵜山仁演出の2009年の公演(この時も1日で三部作一挙上演の日があった)と、2010年、彩の国さいたま芸術劇場での蜷川幸雄演出があるが、四部作としての一挙上演は、このカクシンハン公演が初めてであろう。
 他には2012年に"子供のためのシェイクスピア"による『ヘンリー六世・第三部』と『リチャード三世』を合わせたものが上演されており、この年には新国立劇場の『ヘンリー六世・三部作』でリチャード三世を演じた岡本健一による『リチャード三世』が同じく鵜山仁演出で上演され、時間をおいて四部作を完結させている。
 鵜山仁演出の『ヘンリー六世』は三部作の完全版の上演で、蜷川幸雄演出は三部作を二部に圧縮(それでも途中の休憩時間を除いて7時間半)しての上演であったのに対し、カクシンハン版は休憩時間を除いて実質3時間半、各部がそれぞれ1時間10分程のダイジェスト版となっている。
 鵜山仁演出では三部作にそれぞれサブタイトルがついて、第一部が「百年戦争」、第二部が「敗北と混乱」、第三部が「薔薇戦争」となっており、カクシンハン版にも同じようにサブタイトルがついていて、第一部「二つの国」(1422-1444)、第二部「二色の薔薇」(1445-1455)、第三部「二人の王」(1460-1471)となっていて、それぞれそのコンセプトが感じられて興味深い。
 キャスティング面では、蜷川幸雄演の『ヘンリー六世』では乙女ジャンヌとマーガレットを大竹しのぶが演じたが、カクシンハン版では同じように個性の強い真以美がこの二役を演じたのに共通性を感じた。
カクシンハン版『ヘンリー六世』には思わぬ仕掛け(?)があった。
 開演前(?)、ヘンリー五世に扮して米国出身の岩崎MARK雄大が登場し、いきなり英語でしゃべり始めた。
 薔薇戦争の発端となる後継者問題をエドワード三世に遡って、その7人の子供たちとその後継者たちについて英語でとうとうと説明するが、途中、携帯電話などのスイッチを切る注意なども間に入っているので、開演前のアドリブだと思って聞いていた。そして舞台は、第一部の冒頭部、ヘンリー五世の葬儀の場となって、岩崎MARK雄大はヘンリー五世として床に倒れ伏す。
 しかし、彼は次第に胎児のように体を小さく丸め、まるで幼児返りのような姿態をし、そのまま跳ね上げられた床から奈落へと滑り落ちていく。この状況で彼がヘンリー六世を演じるのであろうと一瞬思ったが、そうではなく、ヨーク公リチャードを演じた。
 ヘンリー五世としてエドワード三世以後の系図に関して岩崎が英語でしゃべっていた台詞が、第二部(原作ではその第二場となる)で王権の正当性を語るヨーク公の台詞と全く同じであることに気づき、開演前の英語の台詞が単なるアドリブでない、重要な仕掛けになっていることを感じた。
 ヘンリー五世の英語での台詞は、いうなればこの三部作全体のプロローグであり、ヘンリー五世はアドリブではなく、序詞役であったことに気づかされた。
 第三部最後の場面、エドワードが再び王座に就いたロンドンの王宮の場面は、先に上演された『リチャード三世』と叙事詩的に連環構造をなす絶妙な終わり方であった。
 場面設定そのものは原作通りだが、『リチャード三世』の冒頭部、祝宴の場に仮面を付けたショア夫人らが登場する場面が再現され、最後に、リチャードが『リチャード三世』の冒頭の独白である「俺たちの不満の冬は終わった」という台詞をつぶやきながら舞台後方に一人去っていくことで、先に『リチャード三世』を観ているはずの観客にとっては強烈な印象を残す。
 この四部作全体の構成、仕掛けを感じ取るためにも、今回の一挙上演は通しですべて観るべきだろう。
 第一部の「二つの国」であるが、これは言うまでもなくイングランドとフランスの両国を指し、両国の百年戦争に関連した舞台で、その両国を代表するトールボットと乙女ジャンヌ・ダルクが中心人物となり、それぞれ河内大和と真以美が演じる。
 河内はこの第一部だけでも、他にエクセター公、フランス王シャルル、サフォーク公と一人4役をこなす。
しかしながら、当初、原文でこの三部作を通しで読んでいるにもかかわらず、人物関係や、誰が誰かつかめず、多少イラついた。
 第二部「二色の薔薇」は、グロスター公(時田光洋)とウィンチェスター司教(長田大史)の対立が二人の死で終焉した後、白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家の王権をめぐっての対立が本格的に始まり、ここでの中心人物はヘンリー六世(穂高)とマーガレットであるが、比重は次第にマーガレットに移っていき、エピソード的にジャック・ケイドの反乱が挿入されるが、これは登場人物のダンスで表現されるにとどまる。
全体的にも遊びの場面が結構あるが、特に注目されるのは、マーガレットを演じた真以美が関西弁を使うことでマーガレットの嫌味を一層増幅させて感じさせ、『リチャード三世』でマーガレットを演じた葛たか喜代の グロスター公爵夫人エリナーをいたぶる場面などは圧巻であった。
 河内大和は第二部ではマーガレットの恋人役サフォーク公とリチャード、他を演じる。
 第三部「二人の王」は、ヘンリー六世とエドワード四世がそれぞれ王位に立つことからつけられたタイトルである。第三部はそのまま『リチャード三世』と直結するだけに、キャスティングもマーガレット役の真以美以外は同じ役で登場する。河内のリチャード、岩崎のグレイ夫人、穂高のクラレンス公ジョージ、阿久津紘平のエドワード王、永田大史のヘイスティング卿などがそれである。
 真以美はマーガレット以外に、『リチャード三世』で演じたリッチモンドを、この場では幼年時代のリッチモンドとして登場して、ヘンリー六世の顔にいたずら書きなどのお茶目を演じる。
 遊びのキャスティングとしては、リチャードを演じる河内がボーナ姫を演じ、その意外性で面白く感じさせてくれた。河内大和の多彩な演技は、まさに怪優というべきものであろう。
 三部作のハイライトの場面をコンパクトにまとめ上げた構成力に改めて感心しただけでなく、何よりも俳優たちのエネルギッシュな演技を堪能させてくれた舞台であった。

 

訳/松岡和子、演出/木村龍之介
5月19日(木)14時開演、シアター風姿花伝、チケット:(三部作通し券)4500円、全席自由

 

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