高木登 観劇日記2016年 トップページへ
 
   『カクシンハン版 リチャード三世』        No. 2016-011
 

開幕とともに背景に映し出されるのは、冬枯れの木立のシルエットに、全景が燃えるような赤に染まった風景。
舞台奥の奈落から突然、片足がのぞき、続いてもう一本の足が出てきて、さらに全身が現れ、舞台上に転がるようにして飛び出てくる醜い姿をした奇形のリチャード三世。
彼が生まれ出てきた背後のホリゾントには、母親のヨーク公爵夫人が黒い布に包まれた赤ん坊を抱いて立っているが、その赤ん坊の顔を見て悲鳴を上げて投げ棄ててしまう。
それを見ていたその赤ん坊であるリチャードは、母親をピストルで撃ち殺す―。
『ヘンリー六世・第三部』の終わりの部分のリチャードの台詞に、「俺が足から先に生まれてきた理由は、急いで出てきて、我が一族の王権を簒奪したやつらを滅ぼすためだ」があり、この冒頭の場面の演出はそれを喚起させる。
そして場面は一転し、ヨーク家の勝利と繁栄を祝うパーティの場となるが、リチャードはその中央に位置しながらも疎外された状態に置かれている。
パーティの場はストップモーションでリチャード以外はそのまま静止した状態となって、『リチャード三世』冒頭のリチャードの独白、「さあ、俺たちの冬は終わった」の台詞が始まる。
見事な幕開けである。
最後の場面もこの幕開けとの円環をなすかのようで印象的である。
「馬をくれ」と言いながらリチャードはリッチモンドの腕に抱かれた状態で殺されるが、なおもその腕の中で「馬を、馬を」と言い続け、その言葉は次第に「ウマ、ウマ」という赤ん坊言葉に変じて赤ん坊返りをする。
リチャードを演じる河内大和は、型通りの異相の奇形な姿―びっこをひき、背中は瘤を背負ったせむしの姿―で、今やカクシンハンの看板俳優の一人でもあり、熱演を超えての力演で、演技と台詞力で圧倒した。
カクシンハンの看板女優である真以美はアンとリッチモンド、それに仮面をかぶったショア夫人、市民などを演じた。
バッキンガム公はダブルキャストで、当日は白倉裕二が女性的なバッキンガムを演じたのが印象的であった。
マーガレットもダブルキャストで、この日演じた葛たか喜代も、素の感じの演技で味わい深く感じた。
カクシンハンではこれまでも男優が女役を演じる演出が多くあったが、今回、王妃エリザベスを演じた岩崎MARK雄大も変に女性的に繕うことなく、なかなかの好演であった。
出番は多くないものの、ヨーク公爵夫人を演じたのぐち和美が圧倒的な存在感を見せつけた。
異色のキャストとしては、舞台の袖のピットでドラム演奏をしているユージ・レルレ・カワグチ。彼は演奏中、最初から最後まで司教の帽子をかぶっていたので、最初は舞台上に見えることから演出上の技巧の一つかと思っていたが、イーリーの司祭として舞台に登場したのは意外であった。
演出上の面白さ、興味は他にも多くあったが、意外性の一つとして、戦場でリチャードが夢に見る彼が殺した者たちの亡霊たちの登場の場で、亡霊たちが彼を取り囲んでまるでゲームを楽しむかのようにリチャードの周りをぐるぐる回っていたことである。亡霊はリチャードにのみ現れ、リッチモンドにはこの舞台では現れないのは、アンや王子とともにリッチモンドをも演じる真以美がリッチモンドの所に現れることは物理的にできないからであろう。
若い出演者を含め、今一番勢いを感じさせる劇団であるだけでなく、フレッシュな感覚の演出でまた一つ新たなシェイクスピアを楽しませてくれ、期待通りというよりそれ以上に楽しむことができた舞台であった。
上演時間は、途中10分間の休憩を挟んで2時間40分。
【私の感激度】 ★★★★★

(訳/松岡和子、演出/木村龍之介、5月7日(土)14時開演、中落合の“風姿花伝”にて観劇。
チケット:(プレ公演)3500円。プログラム:800円、座席:A列10番)

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