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  劇団鳥獣戯画第89回公演 キャバレーボードヴィルショー
                  『ベニスの商人』         
No. 2016-010

 劇団鳥獣戯画のシェイクスピア劇―題して「キャバレーボードヴィルショー『ベニスの商人』」は、その名の通り、歌あり、踊りあり、手品、曲芸、漫才などのショー満載のお芝居を楽しむことが出来た。
 幕開き前には、ゲン嶋田(だと思う)が張りのある声でカンツォーネ「オーソレミオ」独唱のサービス、そしてその後開演までルイ・アームストロングのジャズ音楽が流れる。
 1時間半という比較的短い上演時間ながらも色々なショーを満載した上、話の本筋や肝要な台詞の場面もしっかり入っており、全体の構成としても非常によかった。
 嫌われる存在である高利貸しのシャイロックについては、なぜユダヤ人が差別的に憎まれているかを創世記から遡って、金融業でアメリカを牛耳る富裕層のユダヤ人の圧力で、パレスチナ分割によるイスラエル国家の成り立ちまでを、劇中、幕間(まくあい)的にベラーリオ法学博士が登場して説明するのも非常に面白い趣向であった。
 箱選びの場面では、金の箱を選んだスケボーに乗ってきたモロッコの大公、銀の箱を選んだアラゴンの大公が箱選びに失敗するのは原作通りだが、最初金の箱を選ぼうとしたバッサーニオがポーシャの声で思いとどまって鉛の箱を選ぶのだが、意外にもそれも外れであった。
 それを仕組んだのは肖像画として背後の額縁の中で終始成り行きを眺めている父親の亡霊で、彼はポーシャを誰にも渡したくないので彼女の求婚者が箱選びに失敗するたび喜びと揶揄する歌を歌って楽しんでいたが、バッサーニオとの結婚を望んでいたポーシャは亡霊の父親を責め立て、やっと結ばれる。
 法廷の場では、裁判に敗れたシャイロックが財産を没収された上に、ベニスの市民に危害を加えようとした罪でベニスの法律によって死刑を宣告されるが、娘ネリッサが必死にポーシャが扮する裁判官に助命を懇願する。
 シャイロックはキリスト教徒に改宗することで死刑を免れることが出来るという法律で改宗を受け入れる。
 例の指輪騒動や、沈没したはずのアントニーの船が無事に戻ってきたことがランスロットによってこの法廷の場で報告され、最後のどんでん返しは、改宗を受け入れたかのようにして退場するシャイロックが、「だれがキリスト教徒になんか改宗するものか!」と叫んで、十字架に手を縛られたままのアントニーに向かって短剣を投げつけ、それがアントニーの胸に刺さってしまう(その短剣は紐で操られてアントニーの所まで飛んでいく仕掛けになっている)ところで終わる。
 『ベニスの商人』の中で有名な3つの場面、「箱選び」、「法廷の場」、「指輪騒動」は、それぞれ原作とは異なる改作がされているが、その違いを楽しむことが出来るのも一興であった。
 シャイロックや高利貸しのユダヤ人問題などは、冒頭部でコントにして漫才で演じられ、ジェシカがロレンゾーと駆け落ちする夜の仮面舞踏会の場では、手品や曲芸などのショーが入り、シャイロックから家の中に閉じ込められてしまったジェシカはエアリエル・シルクの曲芸を披露して脱出する。
 原作では台詞の中にしかないアントニーの船が座礁する場面を、一輪車に乗った男優と一緒に、ネリッサを演じた女優がタイタニック号を模型にした紙の船を頭上にかかげてアクロバット的な曲芸をし、その背後ではフェニックスが羽根を広げたような姿をした精霊が、小林幸子が年末の紅白歌合戦で着るような衣装で歌を歌っている。
 劇の説明役・進行役として、ちねんまさふみと豊満な胸を露わに見せる魅惑的な衣装の女優二人が演じ、シャイロックは劇団の看板女優石丸有里子が演じ、総勢15人が演じる賑やかな舞台であった。
 本番の公演は1ドリンク付きで、スペシャルショーとの二部構成だが、ゲネプロはドリンク・サービスなしで第一部のみの上演であったが、ユダヤ人問題解説など一味違った盛り合わせで十二分に楽しませてもらった。


脚本・演出・振付/知念正文、音楽/雨宮賢明
5月2日(月)13時開演、参宮橋 TRANCEMISSION、チケット:(ゲネプロ)3000円、全席自由

 

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