高木登 観劇日記2016年 トップページへ
 
   板橋演劇センター公演 No. 99 『ヘンリー八世』      No. 2016-009
 

シェイクスピアの全作品37作上演という偉業を達成したことを、まず祝福したい。
これまでにシェイクスピア全作品上演を一人の演出家で達成したのはシェイクスピア・シアターの出口典雄だけであるが、遠藤栄蔵の凄いところは全作品演出にとどまらず、全作品に出演もしていることである。
演技部長の鈴木吉行と、全作品の衣装も担当した酒井恵美子の二人も、全作品に出演しているというのも他に例のないことだろう。
シェイクスピア没後400年という記念の年にそれを達成したということだけでなく、1980年に『夏の夜の夢』で旗揚げ公演して以来、37年目に最後に残った37作目を上演、しかもその公演日がシェイクスピアの誕生日でもあり、亡くなった日でもある4月23日と24日の両日であり、作品の演目も縁起よく末広がりの「八」のついた『ヘンリー八世』と、何から何まで、この偉業を祝福するかのように慶事が重なっている。
板橋演劇センターのこれまでの公演回数は99回、そのうちシェイクスピア作品は79回に及んでおり、1年に2作のペースでシェイクスピアを上演してきたことになる。
公演そのものも掉尾を飾るべくしての意気込みが感じられ、素晴らしいものであった。
タイトルロールを演じた板橋演劇センターの主宰者遠藤栄蔵は、重厚なるヘンリー八世の人物造形の中にも、彼の温かみを感じさせる演技でじっくりと味あわせてくれた。
その彼が冒頭では、プロローグをコミカルな序詞役として務め、エピローグでの「この芝居のいいも悪いも、慈悲深いご婦人がたのお心にかかっているのでございます」という台詞では、作品の台詞としてではなく、遠藤栄蔵その人の懇願の声として感じ入ったかのように、隣席の御婦人方から微笑みの笑い声が漏れ聞こえたのも、彼の人徳によるものだと感じられた。
鈴木吉行はバッキンガム公とキャンタベリー大司教クランマーの二役を好演し、劇団AUNの星和利も枢機卿ウルジーを演じ、その失脚と死のすぐ後にはキャサリンの侍従グリフィスとして登場して、一変した人物像を演じたのも見ものであった。
この二人の台詞回しや演技力が、舞台を引き立たせたばかりでなく、大いに楽しませてもくれた。
王妃キャサリンを演じたのは酒井恵美子、若手ではサリー伯を演じた眞藤ヒロシや、クロムウェルを演じた津田なつ子などの好演が新鮮に感じた。
上演時間が2時間と圧縮されていることもあってアン・ブリンなどの登場する場面はなく大幅にカットされているが、この作品を知らない人たちにも物語全体は十分に理解できるものとなっていた。
見終わった後、いろいろな意味で、感慨ひとしおのものがあった。
シェイクスピア全作品上演という偉業を達成した後も、遠藤栄蔵はこの先新たにシェイクスピア全作品をもう一度やりたいという気持ちをもっておられるということで、嬉しい限りである。
地域に愛される劇団として、これから先は後継者育成をしながら長く続けて行かれることを切に願ってやまない。

(訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵、4月24日(日)14時開演、
板橋区立文化会館小ホールにて観劇)

 

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