高木登 観劇日記2016年 トップページへ
 
   劇団昴公演 『ヴェニスの商人』      No. 2016-008
 

チラシのキャッチコピーには「悪って何?悪人って誰?」とあり、そのことをまず考えてみる必要があるかとも思うのだが、それは一旦置いておこう。
全体を通してみれば正調な演出というのが実直な感想であるが、それでは何をもって正調かという問題にもなるのだが、ここではいわゆるシェイクスピア劇調といっておくことにする。
しかしながら、ところどころに変化球があり、目の離せない場面があった。
最近の舞台では最後に一ひねりある演出が多く、どのような終わり方をするのかも興味があった。
法廷の場が終わり、ネリッサとグラシアーノ、ポーシャとバッサーニオの指輪騒動も無事おさまり、ロレンゾーとジェシカはシャイロックの遺産を受け継ぐ権利書を得、アントニーもすべての持ち船が無事積み荷を満載して戻って来た知らせを受け、めでたし、めでたしとなり、バッサーニオとポーシャ、グラシアーノとネリッサ、ロレンゾーとジェシカはそれぞれ仲睦まじく抱き合っている。
アントニーも船が無事であったという知らせの手紙を、誰かに見てもらおうとそれぞれのカップルに近づくのだが、誰も振り向いてくれず、一人仲間外れ的になり、行き場のない顔をする。
こういう場面ではよく、アントニーだけが一人残って孤独な姿を印象的に描き出す演出が見られるのだが、ここではアントニーを演じる宮本充の表情がむしろコミカルな感じで途方に暮れているという姿で、舞台がそのまま暗転して終わるので却って新鮮な印象であった。
箱選びの場面では、バッサーニオは自分の力で選ぶというより、終始ポーシャの身振り、素振りを気にしてヒントを得ようとしているように見え、ポーシャもそれに応えるかのように、3つの箱が置かれた周囲を唄いながら歩き回っていた。
ポーシャの態度で見過ごせない気がしたのは、法廷の場でシャイロックがアントーニオの肉を切り取ることを断念し、床に置かれたトランクに入った貸金を受け取ろうとしたとき、彼女は足でそのトランクをはねのけるという激しい動きをしたことであった。
シェイクスピア劇的正調さということに関して言えば、山口嘉造三が演じるシャイロックがその代表といえる。
衣装も、所作も、台詞回しも、自分にとってごく普通に感じるシャイロックであった。
よく言えば安心して見ておられるということであるが、反面物足りなさもある。いま、シャイロックを演じるという意義、劇団昴がいま『ヴェニスの商人』を上演するということに関して、刺激に乏しい気がした。
さて、この舞台を観た上でキャッチコピーの問題に立ち返ると、自分としての回答は、絶対的な悪はなく、又悪人もいないが、だれにもその悪や悪人の要素を抱えているということであった。
特にその矛盾の激しさを感じさせたのは望月真理子が演じたポーシャであった。
出演者は、ベテラン、中堅、新人のミックスで歴史のある劇団昴ならではの陣容で、なかでもヴェニスの公爵を演じたベテランの金尾哲夫の演技と台詞回しは安心して見られ、アントニーを演じた宮本充も永遠の青年というすがすがしさを保っていて、久しぶりにその演技を楽しませてもらった。
ポーシャ役の望月真理子は昨年からの在籍で本公演初出演というが、フレッシュな感じの中にも堂々としたものがあり、出演者の紹介がなければ中堅の女優と思っていただろう。
他に、バルサザー役には岩田翼、ランスロー・ゴボーに大島大二郎、グラシアーノに佐々木誠二、モロッコ王に岡田芳宏、ネリッサにあんどうさくら、ジェシカに箱田好子など、総勢16名の出演者。
上演時間は、途中15分の休憩を挟んで2時間50分。

(訳/福田恆存、演出/鵜山仁、4月19日(火)14時開演、Pit昴にて観劇。
チケット:4200円 、全席自由席)

 

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