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  俳優座・宮崎真子の演劇ワークショップ 『冬物語』         No. 2016-007

― 公益財団法人・藤沢市みらい創造財団主催 ―

 藤沢市みらい創造財団主催による宮崎真子の演劇ワークショップは13年続いているという。箱ものだけでなく、ソフト面での活動がこのような形で行政によって継続されているということが素晴らしいことだと思った。
 この財団の活動は今回の出演者の一人でもあるYSG(横浜シェイクスピア・グループ)主宰の瀬沼達也氏の紹介がなければまったく知る由もなかったが、持つべきものは志を同じくする友であると、あらためて感謝の気持ちを抱いた。湘南台市民シアターホールは、日本では珍しい円形劇場でそれだけでも一見の価値があるという言葉にも惹かれた。
 ワークショップの参加条件は高校生以上で、所定の6日間のワークショップに参加可能な者に限られ、受講料はわずか6000円と、劇場の扉に貼られたチラシに書かれていた。
 この日、ワークショップ発表会開演に先立って演出家の冒頭挨拶で行った説明によると、参加者にワークショップの初日にいきなり役を決め、台詞を覚えてくるように言ったという。
 参加者は全部で17、8名いて、そのうち男性は瀬沼氏を含めてわずか3名であった。最年少は女子高校生が一人で、女性陣の年齢層は若い人から熟年の方までと多彩な陣容で、全員参加ということもあって、場面ごとに役柄が入れ替わる。
 登場人物の配役が変わっても、衣裳の一部などでそれと分かるように工夫されており、例えばリオンティーズの役では赤いマントを羽織っているといった具合である。
 参加者は、まったくの未経験者らしき人もいれば経験者らしき人もいて、それぞれにそれなりの味わいをみせてくれる。
 相手の台詞を聞き取るよりも自分の台詞が精いっぱいで自分の台詞がくるまで棒立ちで、頭の中で自分の台詞を反芻しているような人もいれば、台詞を忘れたり飛ばしたりしてプロンプトがつく人もあれば、よどみない台詞に所作がごく自然についている人もいれば、大げさなジェスチャーの入った所作の人もいて、観ていてなかなか楽しいものであった。
 場面構成は、シチリアを場面とする第1幕第2場と第2幕第3場、それに第3幕第2場の法廷の場、そして間に第4幕第1場の「時」の登場をはさんで、場所はボヘミアへと移り、第4幕第2場、4場、そして最終場面の第5幕第3場を組み合わせたものであった。
 最後のハーマイオニの像が動き出す場面では、思わず目頭が熱くなるものがあり、決してうまいという演技ではない中にも、このような感動をもたらす演出の巧さを感じさせるものがあったが、それは演出の巧さだけによるものではなく、出演者全員のひたむきな姿勢が伝わってくるからこそ生じるものでもあった。
 観客の数は出演者とほぼ同数の数で広い劇場にまばらであったが、そのほとんど(というより全員であろう)が出演者の関係者であった。
 その観客の一人である高校生の父親の方が、最初の第1幕第2場の場面で最初のリオンティーズを演じた瀬沼氏が、マミリアスを演じた娘さんの肩を抱いてリラックスさせていたことを感謝する一方で、瀬沼氏の台詞と演技の巧さに感嘆していた。瀬沼氏は当日体調を悪くしたため、一人だけ台本を片手に演技していた。
 上演時間は、休憩なく2時間で密度の高いものであった。
 藤沢市がこのような活動を支援していることと、13年間演劇ワークショップを続けて来られた宮崎真子さんに敬意を表したい。

 

台本/小田島雄志訳
3月21日(月)、湘南台市民シアターホール

 

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