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  SPAC公演、オマール・ポラス構成・演出
             『ロミオとジュリエット』          
No. 2016-006

 開幕からぞくぞくするような期待感にわく劇を久々に見る思いであった。
 舞台全体の色調が黒いエナメル気質の鏡のような光沢、半円形の舞台奥の構造に木肌色を生かした細い円柱が間隔をおいて数本直立している。
 鬼太鼓の音とともに、6人ほどの黒子姿の役者たちが木の柩を大八車に斜めに傾かせて登場し、プロローグの台詞を唱和する。
 プロローグの台詞が終わるや否や、ティボルトが上手側から登場し、前方の黒子の被っている陣笠のようなかぶりを黒塗りの木刀で引きはがし下手へと消える。引きはがされた相手はベンヴォーリオとマキューシオ。
 ここから黒子姿の役者たちがモンタギュー家とキャピュレット家の者たちに別れて、喧嘩騒動を始める。
 喧嘩を治めるエスカラス大公は、曲がった杖を手にして、高い台座の上に座していて決して顔を見せることなく横向き姿で、両家の喧嘩を咎める。
 すべてがスピーディに展開していく。
 場面展開をつなぐ場では、その場に登場しない役者たちが、黒色でTシャツのようなシャツと、下には輪っか状のスカートをはいていて、モップを持って舞台の床を拭いて回り、その存在はコーラスのような役割をしている。
 場面場面で用いられるセットの小道具は、桜の木(あるいは桃の木?)や竹藪や、庭石など和風のものが用いられる。
 キャピュレット夫人のパリスとの結婚話の時に初めて登場するジュリエットは、舞台奥の2枚のふすまにシルエットとしてその動きが映し出されるだけで、表には出て来ないが、影絵のような動きが却って想像力を掻き立てる。
 ジュリエットが初めて舞台上に姿を現わした時の印象は、幼さとあどけなさを残した清純な感じで新鮮であった。
 この舞台ではコロスとしての黒子や、キャピュレット、パリス、乳母など狂言回しを演じる役者が印象的であった。
 主役のロミオとジュリエットは、瑞々しい若さと清純さがほとばしっていた。
 各場面に見どころは多いが、この舞台のハイライトは結局、最後のシーンに尽きるであろう。
 ジュリエットの死を知らされたロミオは彼女のもとへと急ぎ走る。
 ロミオは舞台上を大きく弧を描いて何周も何周も、ひたすら走り続ける。
 舞台上には、大八車に乗せられた柩に、赤い花びらに囲まれたジュリエットが仮死状態で眠っている。
 ロミオはそのジュリエットの眠る納骨堂でパリスと出会うが、その時も走り続けたまま、パリスを倒す。
 この最後の場面はすべて台詞が発せられることはなく、無言劇となっている。
 ロミオは走るのを止め、ジュリエットに最後の別れの接吻をして毒薬を飲み、その場に倒れ伏す。
 やがて仮死状態から目を覚ましたジュリエットがロミオに気づき、最初は喜ぶが死んでいることに気づき、深い悲しみに沈み無言の所作をし、帯に刺した懐剣を抜いて、静かに自害する。その時、天井からは赤い花びらがハラハラと落下してくる。
 修道士ロレンスがやって来て、二人が死んでいるのを見て驚き嘆く。
 最後は鬼太鼓の音に続いて、大公エスカラスのエピローグの台詞。
 ロミオとジュリエットの二人が床に伏したままの状態で、暗転―。
 ロミオを演じた山本実幸は静岡出身のSPAC女優、ジュリエットは地元静岡県立大学の学生である宮城嶋遥加、彼女はモンタギュー夫人をも演じているが、キャストの一覧を見るまで彼女とは全く気付かなかった。
 キャピュレット夫人と薬屋を大内米治、狂言回し的にキャピュレットを演じたのは貴島豪、大公エスカラスと乳母を武石守正、ベンヴォーリオは女優の舘野百代、ティボルトとモンタギューを永井健二、マキューシオその他を吉見亮、そして修道士ロレンスをピエール=イヴ・ル・ルアルン、パリスをアントニー・サンドヴァルがフランス語で演じた。
 オマール・ポラスの演出が何よりも斬新で素晴らしかったし、役者の動きも台詞も非常によかった。
はるばる静岡まで往復10時間かけてきた甲斐があった。
 上演時間は、休憩なしで2時間。
 【私の感激度】 ★★★★★


構成・演出/オマール・ポラス、仏訳/ヴィクトル・ユゴー、日本語訳/河合祥一郎
2月28日(日)14時開演、静岡芸術劇場、チケット:3400円、座席:1階L列9番

 

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