高木登 観劇日記2015年 トップページへ
 
  カクシンハン公演 『じゃじゃ馬馴らし』      No. 2015-38
空白

開場前から道路には若い女性で一杯にあふれていて何事かと思うほどであった。
開場時間になって、チケットの予約整理番号順に順次エレベータで4階まで昇っていくが、入場してびっくり、まわりはすべて女性ばかり、しかも大半が20代前後と思われる若い子ばかり、中には小学生らしき女の子も数名いる。
開演間近まで男性はわずか2、3名、その後数名入ってきて自分を含めて全部で6、7名となったが全体の1割程度でしかない。
今回の会場は通常だと50名も入ればいっぱいであるが、この日は無理をして70名近く入れ込んでいた。
以前から“カクシンハン”の若い人たちへの人気の程は感じていたが、今回これほどまでとは正直思わなかった。
チケットも早い段階で売り切れており、この異常な人気は何であろうかと思った。
今回はカクシンハン旗揚げ公演の場所での公演で、密閉された空間における猥雑性、或はマグマ状態のカオスの世界への回帰としての原点に帰る予感を抱いて観た。
客席と舞台が一体となったような場であるので、開演前からすでに上演中のモードである。
カーボーイハットでジーンズ姿、ブーツをはいた男が小さな丸テーブルを前にしてずっと座ったまま、時に煙草を吹かしている。傍らでは、カクシンハンの看板スターの真以美がウェイトレス姿で缶ビールのような飲み物がのった丸いお盆を持って動き回っている。
開演となると同時に、その男のところへ一人の男が現れ、二人でボトルの一気飲みを始める。
壁にかかったモニターにサッカー中継の場面が映し出され、集まって来た客が歓声を上げ騒動を起こし始める。
最初にいた男は鋳掛屋のクリストファー・スライで、ウェイトレスのような女は店の女将さんで、騒動を起こしたスライは店から叩き出され、酔っぱらって道端で寝入ってしまう。
そこへ狩りから帰りの領主の一行がスライを見つけ、彼にいたずらをすることを思いつく。
こうして劇中劇へと進行していき、スライはペトルーチオを演じることになるが、前半部では鎖に繋がれたそのままの姿で、同じ姿勢で不動のまま微動だにせず台詞を語る。
スライとペトルーチオを演じる齋藤穂高を含め、出演者全員が2役も3役をも目まぐるしく演じる。
中でも領主を演じる杉本政志は、バプティスタとヴィンセンショーになりますマントヴァの商人役となって、この二人の会話の場面では忙しく入れ替わり立ち代わり、ドタバタ喜劇を演じて大いに笑いを誘う。
夫ペトルーチオに従順になったキャタリーナ(真以美)が未亡人に妻としての務めを説く場面では、彼女の腰の部分に拳銃を差し込んでいるのが見え、この場面の結末が読めた気がしたが、結果は予想通り、未亡人への説得を聞いて満足しているペトルーチオに向かってピストルで撃つ。
そこで一旦の暗転、場面は劇中劇から再び領主一行が馬に乗って通りかかり、今度は眠っているのではなく死んでいるペトルーチオ(或はスライ)を見つけ、彼らは次の馬鹿な奴を捜そうと言って去っていく。
「じゃじゃ馬馴らし」というタイトルにあやかって、全体を通して登場人物を馬に乗せて登場させる場面が多い(馬といっても、馬の顔らしきものをつけたただの棒でしかないが)。
本来の正統的な展開を保持しながらも、若い感性と体力でシェイクスピアのもつ多様性、猥雑さを表出しており、今の若い人はそれを体全体で受け止めているのだろう。
可能性の充満した演出と演技、そして何よりもエネルギー、パワーを感じる。そこが大きな魅力だと思う。
上演時間は予定の85分を超えて100分間近い熱演であった。

(翻訳/松岡和子、演出/木村龍之介、10月25日(日)14時、渋谷・Gallery LE DECO4にて観劇)

 

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