高木登 観劇日記2015年 トップページへ
 
  パルコ・プロデュース公演・佐々木蔵之介の『マクベス』      No. 2015-24
 

舞台は、ベッドや洗面所、浴槽などを備えた広い無機質な独房。 
冒頭の場面は、男が女医と看護師から自傷で血が流れている胸の手当を受けているところから始まる。 
治療を終えると、女医と看護師は男を一人残して独房を出て行く。 
二人が独房を出て行くとき、男は、「いつまた会おう、三人で?」という言葉で見送り、三人の魔女の台詞を続ける。 
部屋の中央部には大きな窓があり、それはおそらくマジックミラーになっていて、部屋の中からは見えない仕組みになっている。それと知れるのは、ときおり、女医がその男(患者)の様子をそこからじっと見つめているからである。 
また、部屋には監視カメラが据え付けられていて、3台の大きなモニターにときおり男の様子が大きく映し出される。 
おそらくこの男はこれまでにもいくたびも『マクベス』を演じることを繰り返していて、女医が淡々と傷の手当てをしていたのも、いつものことだからであろうことが推察される。 
ダンカン殺害を逡巡しているマクベスを夫人が叱咤鼓舞する場面では、女上位のベッドシーンにし、夫人が自らの言葉とセックスにエクスタシーを感じているという思い切った演出に目を見張る思いがした。 
ダンカン殺害の後、(おそらくこれも自傷のせいで)男の両手は血まみれになっており、女医と看護師がやってきて手を洗ってやり、鎮静剤の注射をして男を静かに寝かしつける。 
マクベス夫人が夢遊病状態で徘徊し、言ってはならない台詞を語る場面では、例の窓に女医と看護師が現れ、二人が侍医と侍女の役をして劇中の台詞を語のは、彼らが男の一人芝居に唯一参加している場でもあった。 
マクダフと戦って敗れた後、男は浴槽に身を沈める。 
観客席からは男が浴槽の外側に両足を投げ出した姿しか見えないが、顔面を水面下に沈めた様子がモニターに映し出される。その時間が実に、実に長い。 
その間、女医も看護士もまったく顔を出そうともしないが、ようやっと浴槽から出た男は、長い間息を止めていたせいで咳き込むようにしてあえいでいる。 
そこでやっと女医と看護師は男のところにやってきて、男を落ち着かせ、二人が再び独房を出て行こうとするとき、男は「いつまた会おう、三人で?」という言葉を繰り返す。 
舞台はここで終わるが、その台詞でこの男が永遠に同じことを繰り返していることが知られるという構成になっている。 
公演のチラシにある「シェイクスピア『マクベス』の登場人物20役を佐々木蔵之介が1人で演じ切るスコットランド・ナショナルシアター版”One-Man MACBETH”。舞台は精神病院。登場人物はたった1人の隔離患者と彼を見守る看護師と女医。監視カメラが、全ての動きを逃さず捕えて映し出す中、観客は、患者に内在する『マクベス』の登場人物たちを介して、物語を追体験する」にすべてが集約されるので、ここで多くを語る必要はないだろう。 
1人ですべての登場人物を演じるためその演技を見逃さないよう神経を集中して観ていると、逆に眠気が襲ってきて途中何度も瞬間的に寝てしまった。 
精神病院の設定自体に関しては鈴木忠志の『リア王』があるので珍しいとは思わないが、この舞台での見どころはやはり何といっても佐々木蔵之介が一人ですべての登場人物を演じるところにあり、そこが圧巻でもあった。 
共演の女医を大西多摩恵、看護師を由利昌也が演じた。 
上演時間は休憩なしで1時間50分。

 

(翻訳=松岡和子訳『マクベス』より、日本版演出=アンドリュー・ゴールドバーグ、
演出補=谷賢一、7月15日(水)19時開演の部、渋谷・パルコ劇場にて観劇。チケット:8,500円。
座席:I列20番。パンフレット:1,500円)

 

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