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  関東学院大学シェイクスピア英語劇 No.64 『恋の骨折り損』     No. 2015-044

『恋の骨折り得』を予兆させるエンディングに喝采

 シェイクスピアの作品はどれをとっても言葉の面白さとその多様さが特徴であるが、その中でもこの『恋の骨折り損』はネイティブでない我々にとっては、演じる方もそうであろうが、聞く方もそれを十分に味わうことが出来ないだけでなく、一般の観客にとっては英語の台詞そのものをキャッチすることが一番難しい作品の一つだと言っても過言ではないだろう。
 演出主幹の瀬沼達也氏が「演出に骨を折った点」を考慮した演出上の工夫について、演出ノートにその難しさを詳しく述べられているのが大変参考となる。その適切な考察が舞台上随所に生かされていて、言葉の障壁を超えた楽しい舞台に仕上がっていたと思う。
 登場人物のコントラストを衣装で際立たせることでうまく人物造形をしていたのもその一つで、ナヴァール国の王と青年貴族たちには一人一人その人物を特徴づける衣装、一方のフランスの王女と淑女たちの色彩鮮やかな衣装は、その視覚的効果もあって舞台を華やかにして楽しませてくれた。
 台詞そのものについては今回、演出上かなりのカットがなされているので単純に比較して言えないが、男女の台詞の掛け合いとして似た作品『から騒ぎ』との比較を事前に調べてみた。
 台詞の多い順に比較参考してみると、まず『恋の骨折り損』では、ビローンが613行と群を抜いて多く、続いてナヴァール王の314行、フランス王女の285行、アーマードの263行、ボイエットの232行、コスタードの189行、そしてビローンの相手役ロザラインは台詞の多さでは7位の177行でしかなく、対する『から騒ぎ』は、ベネディクトが432行、レオナートが328行、ドン・ペドロが313行、クローディオが286行、そしてベネディクトと丁々発止のやりとりをするベアトリスが5位で270行と意外な結果であった。
 この舞台でもビローン役のシンミョウ・ハルカ君(3年生)の台詞が一番多く、よく頑張っていたと感心する。
 今回の舞台で際立った演技で楽しませてくれたのは、アーマードを演じたカトウ・イワオ君(2年生)。舞台全体をも盛り上げ、本人自身が演技を楽しんでいるのがこちらまで伝わってきただけでなく、巻き舌を使った発音もその人物造形に一役買って、英語の台詞自体も楽しんで聞かせてもらった。
 英語の台詞としてはフランス王女役のサトウ・マナさん(2年生)が、済んだ発声で聞き取りやすかっただけでなく、役柄ともマッチしてよかったと思う。
 キャスト紹介を見るまで気づかなかったのは、キャサリンを演じたキムラ・マホさん(2年生)が警吏ダルをも演じていたことで、この変身の演技力には驚いた。
 「演出ノート」にもあるが、この劇はシェイクスピアの他の喜劇とは異なり、なんとなく中途半端で終わりが見ていて落ち着きのないものとなっていて、それだけにこれまでの舞台でも演出上様々な工夫がなされてきている。
 今回のこの舞台では、台詞そのものは変更することなく、所作で終わりの収まりを気分良くしている。
 ホロファニーズ、ナサニエル、コスタード、モスなどが再び登場して「春」と「冬」の歌を合唱する場面で、4組のカップルが手を取り合って仲睦まじく聞いており、その場での「結婚」という大円団はないものの、その気分を十分に感じさせ、祝祭としての喜劇的エンディングとなって、幻の劇'Love's Labour's Won'を予兆している。
 休憩なしで2時間20分という時間が短く感じるほど、テンポよく気持のよい舞台であった。
 そしていつも楽しみにしている最後の、舞台制作にかかわった全員が舞台上に揃って合唱する姿には感動させられ、今回も楽しませていただき、ありがとうと感謝の言葉を送りたい。

 

監修/福圓容子、演出主幹/瀬沼達也、演出/田中弘樹
12月5日(土)12時半開演、神奈川県民共済みらいホール、最前列中央の席にて観劇

 

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