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  第12回明治大学シェイクスピアプロジェクト 『薔薇戦争』      No. 2015-042

第一部 『ヘンリー六世』、第二部 『リチャード三世』

 一昨年(13年)の『ヘンリー四世』、昨年(14年)の『道化と王冠』(『ウィンザーの陽気な女房たち』&『ヘンリー五世』)に続いて、シェイクスピアの歴史劇完結編として『薔薇戦争』で『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』の一挙上演という大挙を明治大学シェイクスピアプロジェクトが成し遂げた。
 昨年の『道化と王冠』の『ウィンザーの陽気な女房たち』と『ヘンリー五世』の二つの作品の組み合わせといい、今回の『ヘンリー六世』と『リチャード三世』の組み合わせと構成には感嘆するほかない。
 『ヘンリー六世』三部作上演は、最近では新国立劇場での鵜山仁演出による三部作一挙上演(2009年)、彩の国さいたま劇場における蜷川幸雄演出の圧縮版の上演(2010年)が記憶に新しく、明治大学の公演はそれに続く。他には子供のためのシェイクスピアによる『「ヘンリー六世・第三部」&「リチャード三世」』(2012年)があり、今回の公演もそれに近いものかと思っていたが、三部作を思い切り圧縮しての一挙上演であった。
 『薔薇戦争』第一部では『ヘンリー六世・第一部』の冒頭部、ヘンリー五世の葬儀の場面から始まる。ただ、第一部はフランスとイングランドの戦い、トールボットとジャンヌ・ダルクが中心となるが、これは薔薇戦争と直接に関係しないので完全に省かれていた。
 三部作を1時間半に圧縮しているので内容的には思い切り省略されており、この作品の内容や歴史的背景を知っていないと話の展開についていくのに苦労すると思う。
 特に人物関係については分かりづらいと思う。その証拠に隣の席の女学生はプログラムの人物関係図から目を離すことなく舞台を観ていた。
 しかし全体の構成は素晴らしいと感じた。
 第1部の終わりはヘンリー六世の暗殺の後、『リチャード三世』の冒頭部リチャードの独白の台詞に続いて、兄クラレンスがロンドン塔投獄に送られるのを見送ってアンに求愛する前までが演じられ、そこで10分間の休憩が入って、第2部の『リチャード三世』へと引き継がれていく。
 最後の場面、ボズワースの戦いでリチャードが倒され、舞台正面の前方に倒れたリチャード、その後部に王冠を手にするリッチモンド、そしてその一直線上の舞台奥の一段高いところにマーガレットが立って、賛美歌を歌っている場面で終わりとなる。
 この終わり方が新鮮な驚きを感じさせてくれた。
 出演者たちの台詞もしっかり届いていて、演技もそれぞれに素晴らしかった。
 毎年楽しみにしているのは、出演者の顔ぶれである。
 学生であるから最大でも4回の出演しかないわけであるが、見覚えのある顔を見ると一種の懐かしさを覚え、帰ってから前年のプログラムを参照しながら出演者の確認をするのも楽しみの一つとなっている。
ヘンリー六世を演じた小日向星一君(政経2)は今回が初めての出演であるが、ヘンリー六世の性格をうまくその表情で演じ切っていたと思う。
 マーガレットを演じる永野有美さん(文3)は一昨年の『ヘンリー四世』でパーシー夫人を演じて以来の出演で、迫力ある演技であった。
 リチャード三世は大津留彬弘君(情コミ4)に代わって『道化と王冠』でフォード夫人を演じた加藤彩さん(文2)。せむし姿や、びっこ足姿ではなく、顔の半分がケロイドのような痣におおわれている。女性が演じるリチャード三世自体が珍しいが、加藤さんのリチャードは台詞力も含めなかなかの好演であった。
『ヘンリー四世』でハル王子、『道化と王冠』ではフォルスタッフを演じ、今回ウォリックを演じた木村圭吾君(政経4)をはじめ、出演者33名のうち13名が昨年も出演し、中には一昨年も出演していた学生も数名いた。
 舞台の出演者だけでなく、生演奏の音楽部、演出、美術、照明、それに翻訳もすべて学生たちだけによるもので、この総合力はプロの劇団でもなかなかできるものでないだけでなく、ある意味では学生だけに許された特権ともいえ、その質も素晴らしいものがある。
 今年も楽しませていただきました。感謝!!
 上演時間は、10分間の休憩を入れて3時間15分。
 (予約開始日に即申し込みをしたのでAブロックを確保でき、観劇当日も開場1時間前より早く並んだおかげで、座席は真っ先に最前列の中心部でゲットできた。)

 

翻訳/コラプターズ、プロデューサー・演出/大野叶子、監修/青木豪
11月14日(土)12時開演、明治大学駿河台キャンパス・アカデミーコモン3階アカデミーホール

 

 【追 記】 早くも来年の公演の演目が決定!(2016年11月)
 シェイクスピア没後400年を記念して、『組曲 ミッドサマー・ナイトメア(仮題)』と称して、第一部『夏の夜の夢』、第二部『二人の貴公子』の2作品を一挙上演。

 

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