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  オックスフォード大学演劇協会(OUDS)来日公演
     同性愛をコンセプトにした 『ロミオとジュリエット』       
No. 2015-029

 開演前にたまたま見てしまった「演出家ノート」、ロミオを女性にしてジュリエットとの二人の女性の同性愛をテーマにした演出の意図を読まずにいたら、多分女優が演じる男性としてのロミオと思っていたことだろう。 
 そう思えるほどロミオを演じるエマ・ダーシーに男性的なたくましさを感じた。 
 昨年の来日公演『十二夜』といい、今回の『ロミオとジュリエット』といい、最近のOUDSの演出のコンセプトには、斬新さ、奇抜さが目立つような気がする。 
 舞台全体の感想としては、まず第一に展開のテンポの良さが目立ったことと、全体的に英語の発声が早く、絶叫とまでは言わないまでも叫ぶようなとんがった発声で詩的情緒がなく、聞き取るのについていけないほどであった。 ヘビーメタルの音楽も腹に響いてくるようで不快感がした。 
 総じて現代的な演出で、衣装はTシャツを主体にしたカジュアルな服装で劇の展開のテンポの速さとマッチングしていて、時代考証的な考えから解放されたものであった。 
 舞台装置は、中央に大人の身長ほどの幅で高さが1mほどの台座があるのみで、これがバルコニーや埋葬所としても活用される、簡素なものであった。 
 全体的に聞き取りづらい発声の中にあって、大公を演じるサム・リウの英語はメリハリのあるクリアな英語で聞き取りやすかっただけでなく、衣装を含めて役柄にもふさわしいものであったと思う。 
 演技面では、キャピュレット家の召使グレゴリーを演じ、ジュリエットの乳母を演じたフィービー・ハメスの好演に注目した。 
 同性愛を演出のコンセプトとしていることもあって、登場人物を男性から女性に入れ替えているのが、ロミオ以外に、ロミオの召使いのバルサザーと友人のベンヴォーリオも女性として女優が演じており、代名詞も'he'から'she'という女性形に変えられており、ロミオも乳母からは'madam'と、ジュリエットから'wife'として呼ばれていて、性を転換した台詞の統一性・一貫性が保たれていた。 
 冒頭部、キャピュレット家とモンタギュー劇の召使い同士の喧嘩の場面では、モンタギュー家の召使エーブラハムとバルサザーが恋人同士のように抱擁し、濃厚なキスをしながら登場してきたのもこの劇のコンセプトを予兆するものであった。 
 この喧嘩騒動の後、冒頭部のプロローグの台詞が挿入されて順序が入れ替えられた演出に斬新さを感じた。 
激しい台詞の発声と劇のテンポの良さ、それに現代的なヘビーメタルの音楽のために、『ロミオとジュリエット』に求めたい情緒味が乏しく、聞かせどころの名台詞の場面も情味がなく、素通りしてしまったのが物足りなかった。 
 同性愛、同性婚という非常に今日的なテーマをコンセプトにした演出の意欲的なチャレンジ精神には評価するとしても、それが邪道的な目新しさを求めているという感じがしないものでもない。 
 しかしながら、そのマイナス的なイメージが逆に印象として長く残るような気もして、意欲的な演出ということで世評も分かれるところではないかと思う。 
 この日、ともに観劇した"雑司ヶ谷シェイクスピアの森"メンバー8名との観劇後の交流会では、おおむねショッキングでマイナスイメージの感想が主であった。 
 総勢13名の出演の中で、ヒロインのジュリエットを演じたヘレナ・ウィルソンの衣装と発声は好印象を与えるものであった。 
 上演時間は、途中20分の休憩をはさんで2時間20分。

 

演出/トーマス・ベイリー
8月20日(木)13時30分開演、東京芸術劇場・シアターウエスト、
 チケット:2300円、座席:F列9番

 

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