『ロミオとジュリエット』は1995年、"子供のためのシェイクスピア"第1回目に上演されているが、そのときは公演について知らず見逃してしまった。
数えてみればそれから20年、その時の子供たちはもうとっくに成人している年頃である。 シリーズ全作に出演の山崎清介、伊沢磨紀など、今回最前列の席から見ると、顔にはそれなりの年輪が深く刻まれているのに感慨深いものを感じた。
冒頭は、いつもの黒いマントに黒いソフト帽の一団が、3年前の悲劇の出来事としてロミオとジュリエットの噂話をしているところから始まり、プロローグの序詞役の台詞は、登場者全員によって輪番で語られる。
"子供のためのシェイクスピア"は、8、9人の人数で複数の人物を早変わりで演じるところなどが特に面白いが、今回、ティボルトを演じた劇団AUN所属の谷畑聡が次の場面で、戸谷昌弘のキャピュレットより大きなキャピュレット夫人になって登場してきたときなどは思わず笑い出したくなったほどであった。
シェイクスピアの作品には女役が少ないこともあって、ベテランの伊澤磨紀はロレンス神父とモンタギュー役の男役をしている。
「子供のための」と言っても大人の鑑賞に十分たえるものであるのは言うまでもないことである。
スピード感のある場面転換と、子供を飽きさせない工夫が随所にあり、それを大人も一緒になって楽しむことができるのがこのシリーズの大きな特徴でもある。
その一つに、乳母がロミオを尋ねる場面で、ピーターを伴うのではなく犬(3人の黒子役が務める)に担がれて登場するという遊び心で楽しませてくれる。
また、ティボルトとマーキューシオの決闘の場面では、ちょうど大相撲名古屋場所の場所中ということもあってか、相撲の仕切りの場面が取り入れられ、その所作で結構笑わせてくれる。
ロミオが追放され、パリスとの結婚を強制されたジュリエットは、ロレンス神父を訪ねるが、そこで仮死状態にする薬を与えるとき、神父はその薬の治験をして効果を示そうとするが、薬を飲んだ患者は所定の時間になっても目を覚まさないままである。
このことは、この物語の最後の場面の伏線をなしており、原作との違いを作り出すことになる。
追放されたロミオにジュリエットの死を知らせる役は、キャスティングの構成上もあってバルサザーではなくベンヴォーリオがするが、これはむしろ的確で面白い置き換えだと思った。
ロミオが毒薬を飲んで死に、ロレンス神父が登場してもジュリエットは目を覚まさず、大公が登場し、モンタギューとキャピュレットの和解がなった後もジュリエットはそのままである。
治験の結果と同じく、ジュリエットは本当に死んでしまったのかと思わせるほど長い間舞台は沈黙したままであるが、やがて目を覚ましたジュリエットが、枕元にあった短剣を手にして、それを胸に刺す場面を暗示したまま舞台は暗転する。
そして最後、黒マントの一団に囲まれたロミオとジュリエットが、手と手を合わせた状態がスポットライトに神々しく照らし出され、終わりとなる。
ロミオは、今回このシリーズ初出演の加藤義宗が演じ、新鮮な初々しさを感じさせたのが印象的であった。
ジュリエットには、シリーズ2回目の出演の太宰美緒、その他、マーキューシオとパリスを若松力、ベンヴォーリオを斉藤悠、乳母とモンタギュー夫人を加藤記生、大公を山崎清介が演じた。
上演時間、休憩なしで2時間5分。
小田島雄志訳による、脚本・演出/山崎清介
7月19日(日)13時開演、池袋"あうるすぽっと"
チケット:4200円、座席:A列15番、プログラム:1000円
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