あいにく終日雨の中、それでも熱心なお客さんで小さな空間(24席)は満たされていた。開演10分前には、早くから来ている人へのサービスで、楠美津香の超訳ソネットがギター演奏に合わせて披露された。
ソネットにはタイトルが付けられ、この日朗読された(歌われた?!)ソネットは、55番「最後の審判」、60番「時の大鎌(時間のナイフ)」、それにシェイクスピアの中で最もポピュラーな18番「君と夏の日」。
一人芝居を観終わった後の感想からすると、いずれのソネットもこの日の演目である『薔薇戦争』にふさわしい内容だったと思われた。
特に55番のソネットにはそのような印象を強く感じ、ソネットの選定の巧みさに感心した。このソネット朗読は、もともとは北海道での連続公演における間奏曲(前奏曲?)的に始められたとのことであるが、また一味違ったソネット鑑賞として楽しむことができるよい試みだと思った。
今回の演目は『薔薇戦争・後篇』となっているが、前篇を観ていなくてもまったく支障なく楽しめるよう親切に工夫されている。
内容的にはタイトルからも察せられるとおり『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』を組み合わせたものであるが、今回はその中に登場する女性に焦点を絞った「薔薇戦争の女たち」である。
いつものように、始める前にホワイトボードに相関関係を示した登場人物を板書し、一通りの説明がなされる。
最初に登場するヒロインは、『ヘンリー六世・第一部』のジャンヌ・ダルク。
今日でこそ彼女は聖女として扱われているが、シェイクスピアの時代では「魔女」扱いで、作品の中でも名前でなく「乙女」とだけしか扱われていないことが説明され、イングランドの武将トールボットとの戦いの場面などが語られる。
『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』の全編通して唯一登場するマーガレットの語りでは、彼女の変容についての捉え方とその説明が実にうまく語られる。
ヘンリーと結婚する前までは清純な乙女、結婚した当初は周りが敵ばかりでストレス症候群に陥るが、亭主のヘンリーが頼りにならないとみると白バラ組と勇ましく戦う女将軍となり、最後は鬼子母神か魔女のように変容していく。
ヨーク家のエドワード四世と結婚するエリザベス、グロスター公リチャードと結婚するする未亡人アン、ヨーク公リチャードの未亡人である公爵夫人など、ハイライトの場面が要領よくまとめられて語られていく。
これらの四部作を初めて(原文で)読んだとき、登場人物の複雑さと、同じ名前で違う人物に戸惑い、誰が誰だかわからなかった頃のことを考えると、このような形で整理されて提示されると、初めての人にも分かりやすいのではないかと感心させられる。
シェイクスピアの作品と史実との違いにも折に触れて説明が加えられ、自分の読み方でもそのようにしているところがあるので、この作品をよく知らない人にとっても非常に参考になると思う。
登場人物が多く、誰が誰だかわからなくなるのを防ぐ意味もあって、それぞれの人物の声色だけでなく、人物によって関西弁や九州弁など方言を使ってなされるのもこの一人芝居の特徴でもあり、それを聞くだけでも楽しく面白いと思う。全体の構成も分かりやすく大変良く、親しみを感じさせるものであった。
90分間の、まさに熱い、熱い、熱演に、拍手!!
6月19日(金)18時半開演、杉並会館・第2集会室、チケット:2000円
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