原題『シンベリン』を日本上演に当たって『アナーキー』と変えているので題名だけではシェイクスピア作品だということが全く分からない。
オリジナルのタイトルが『シンベリン』であるのになぜタイトルを変えたのか考えてみるに、2011年上演のレイフ・ファインズ監督・主演の『コリオレーナス』のことを思い出す。 これも原題がシェイクスピアのタイトルそのままであるのに『英雄の証明』というタイトルに変えられている。
2つの作品に共通して言えるのは、シェイクスピアの作品の中でも全くと言っていいほど一般には知られておらず、タイトルの人物にしても日本人にはなじみがないということである。
『英雄の証明』は原題では映画の入りが悪く、確か上演途中でタイトルが変えられたと記憶している。 その例があって今回は、最初からなじみのない名前を避けてインパクトのあるものに変えたのではないかと推測する。
アルメイダ監督と主演のイーサン・ホークは、2000年の『ハムレット』以来のシェイクスピア作品である。
場所と時代は前回の『ハムレット』と同じく現代のアメリカで、今回の『アナーキー』は、プログラムの解説によるとペンシルバニア州の片田舎に設定されている。
登場人物のブリテン王シンベリンは麻薬王のギャングのボス、対するローマ軍はローマ警察に変えられ、ローマ警察は麻薬組織からみかじめ料を取り立てていたが、シンベリンが再婚相手のクィーンの入れ知恵でみかじめ料を止めたことから両者の間で抗争が始まる。
登場人物の名前や地名のミルワードやニューヘイブンなどは原作通りそのまま使用され、筋の運びも原作に忠実であるが、原作を読んでいるだけにギャングと警察との抗争などの筋立てに多少の無理を感じ、違和感がないでもなかった。
しかしながら、シェイクスピアをこのような形に再現されたものを観ることができたことに、シェイクスピアを新しく読む面白さというものを感じさせてくれた。
キャスティングの順序では、ヤーキモー演じるイーサン・ホークがトップで、シンベリンのエド・ハリス、クィーンのミラ・ジョヴォヴィッチ、ピザーニオのジョン・レグイザモが大きく扱われ、主人公役のポステュマスのベン・バッジリー、イノジェンのダコタ・ジョンソンはそれよりも小さく扱われている。
映画の中で意外と大きな役割をしているのが、ピザーニオ演じるジョン・レグイザモ。
麻薬王のシンベリンを演じるエド・ハリスは強面の凄味を感じさせる。
イーサン・ホークは15年前のハムレットから見ると、中年の渋みを増した姿が印象的というより驚きでもあった。上演時間は、約1時間40分。
6月18日(金)、新宿のシネマカリテにて観る。料金は一律1500円
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