2013年4月に始まった荒井良雄主催による坪内逍遥訳シェイクスピア朗読劇が、今年の2月に『末よければ総べてよし』をもって全作品完了した。 その完了をもってすべてのことをなし終えたかのようにして、荒井先生が4月8日に急逝された。
昨年12月に口腔癌の手術をされ、その後の経過も順調だと思われていただけに、その突然の死に、驚きとショックで言葉を失ってしまった。享年79歳であった。
1990年2月からヴィオロン文芸朗読会を四半世紀にわたって続けてこられ、世界一小さな劇場としてこよなく愛されてきた阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロン、マスターの寺元健治氏選曲によるSPレコードによる名曲鑑賞を味わいながら、朗読劇を自らも楽しんでこられた。
荒井先生が残されたものは数知れないが、その中の一つでもある先生が顧問をされていた新地球座により、 "荒井良雄者沙翁劇場"として、坪内逍遥没後80年記念"逍遥シェイクスピア朗読劇公演"の第1回『十二夜』の朗読劇が催された。
喫茶ヴィオロンの店内はとても小さな空間であり、ステージに当たる朗読の場は4人並べば身動きもできない狭さ、それを今回は6名の出演者。
出演者は、新地球座主宰の久野壱弘が騎士トービー・ベルシ、同じく新地球座の代表倉橋秀美がヴァイオラ&マライア&セバスチャン、シェイクスピア・シアター第1期生の高橋正彦がオーシーノ公爵&マルヴォーリオ、特別出演として森秋子がオリヴィア姫&騎士アンドルー、友情出演としてシェイクスピア・シアター第1期生滝本忠生がフェービヤンとアントニー、そして清水英之が船長と道化のフェステを朗読。
どの出演者もそれぞれの役柄で楽しませてくれたが、久野壱弘は飲んだくれの騎士トービーをリアルに演じ、聞いているのも楽しかったが、観ていてなお楽しく面白い演技と朗読であったし、一人3役の倉橋秀美はマライアの役を一番楽しそうに演じており、森秋子はオリヴィア姫と騎士アンドルーの声の見事な使い分けが素晴らしく、なかでもアンドルー役がとてもよかった。
高橋正彦のオーシーノ公爵は、彼がシェイクスピア・シアターの『十二夜』で演じたのもその役であったというから、感慨深いものがあったと思う。往時を観ていないだけに貴重な体験を味わうことができた。
滝本忠生は今でも現役でときどきシェイクスピア・シアターの舞台に立っているが、その演技同様に味わいのある朗読を楽しませてもらった。
出演を知ってその唄を一番の楽しみにもしていた清水英之の道化フェステ、劇中3度もその唄を聞くことができただけでなく、初めて聞く台詞力にも驚かされ、大いに満足させられた。
最後に全員が声を合わせて歌うフェステの台詞の唄は、これまでとは一味違う感動的なフィナーレであった。
朗読台本は荒井良雄、演出は高橋正彦。
なお、逍遥訳朗読劇は第二部で、第一部では、荒井先生が主宰された日英朗読塾の塾生、尾崎廣子が川端康成『掌の小説』より「雨傘」を朗読し、高木がシェイクスピアのソネット2番と12番を、自己訳をつけて朗読した。
6月12日(金)午後6時半より、阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロンにて
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