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  カクシンハン第7回公演 『オセロー(Black版&White版)』      No. 2015-017

悲劇というよりコミカルな喜劇としての演出

 それぞれ上演時間が3時間半にもおよぶBlack版とWhite版を一日で一挙に観た。 因習的なものを打破する画期的な舞台で、良い意味での若さを感じさせた。 
 Black版は、オセローのコロスを黒子に登場させ、White版ではイアゴーのコロスを純白の衣装で登場させる。
  そのことでBlack版が黒を基調にしているのに対し、White版は白が基調となっているのがうかがえる。 
 これは舞台装置の使い方にも表れていて、唯一ともいえる装置は、内側に人一人が入れるサイズで高さが2mほどの三角形をした簀の子状パネルの衝立に台座に滑車が付いて自由自在に移動され、表が白、内側が黒色になっていて、それは時に登場人物の心理的状況をも表象していて、特にオセローがこの衝立に乗って登場してくるときは、内側の黒色を前面に出して彼の心理状態を表すのに一役買っている。 
 両ヴァージョンの主要人物、オセロー、イアゴー、デズデモーナとロダリーゴのキャスティングは変わらず、演出的にも大きな違いはほとんどないので、二つのヴァージョンに分ける必要があるのかといえば、評価が分かれるところだと思う。 
 個人的な感想から言えば、当日はBlack版から観たのだが、あとから観たWhite版だけでも良かったかとも思うのだが、細かい点での違いがあってその面白さもあって、この二つのヴァージョンを観ることができてよかった。 
 空爆の爆撃音とそれに続く地上での殺戮作戦で、人々が倒れ伏す場面から舞台は始まる。 
 最後の場面にもこの爆撃機の音が上空に響き、両腕を後ろ手に縛られて座っているイアゴーの首元に兵士がナイフを当てている姿は、人質を処刑するイスラム国を思い出させ、Black版ではイアゴーに黒い袋をかぶせるのでその印象を特に強く感じた。 
 Black版とWhite版の違いは、舞台冒頭部にもある。
 同じように爆撃と地上での殺戮場面が繰り広げられるが、White版では舞台中央の全部でイアゴーを演じる河内大和が胎児の姿をして小さく丸まって寝転び、手足を猫のように動かしているのが印象的であった。 
 それは、不条理な殺戮の場面に生まれ落ちたイアゴーがなす不条理な行為の予兆的シーンとも感じ取れる。 
 ただ、この舞台は悲劇というより全体的にはコミカルな喜劇性を感じさせる演出で、そこがこれまでのものとは大きな違いを感じた理由の一つであったかと思う。 
 特に、ロダリーゴとイアゴーのやりとりは、ボケとツッコッミの漫才を見ているような面白さ、楽しさを味わった。 
 ロダリーゴ演じる白倉裕二(劇団SET)の軽快なフットワークも見もので、見ていて大変楽しかった。 
 オセロー演じる丸山厚人、デズデモーナ演じる真以美などの主要人物にもコミカルな軽快さがあり、舞台全体を楽しく盛り上げていた。 
 オセローはほとんど素顔の色で、目元に小さくタトゥーを入れただけでムーアとしての色の黒さを強調するでもなく、楽師の代わりにエレキギターを奏で、これまで演じられてきたオセローの印象とはかなり異なる造形であった。 
 Black版でブラバンショーと兵隊隊長を演じていた杉本政志(劇団AUN)は、White版ではブラバンショーと女役エミリアを演じており、彼がこれまで出演したカクシンハンの舞台全部で女役を演じることになり、その女役を演じるのを楽しんでいるかのようである。 
 Black版とWhite版での違いの一つに、デズデモーナが死を予感して歌う「柳の唄」が異なっていて、最初に観たBlack版では「柳の唄」とは歌詞が全く異なっていて「おやっ?」と思ったが、White版では「柳の唄」となっていた。 
 そのほかの主な登場人物としては、Black版では文学座の梅村綾子がエミリアを演じ、キャシオー役はBlack版では齋藤穂高、White版では岩崎雄大が演じ、出演者総勢で30名という賑やかで華やかなものであった。


5月4日(月)12時開演(Black版)、17時開演(White版)、
 池袋・シアター・グリーン BIG TREE THEATRE
チケット・セット:S席、8000円。座席:B列8番、 D列6番

 【観劇メモ】 
 白内障手術の1週間後で、視力もまだ安定していないため、裸眼0.1でメガネもなく観劇し、細かいところは見えないので、気になる場面だけ双眼鏡で確認しながら観た(手術前の裸眼は0.03。普段かけているメガネでの矯正視力で0.1で、観劇の際にはもっと度の強いメガネを使うのだが、視力が変わったので使い物にならなかった)。 幸い小劇場なので、メガネなしでもだいたい観ることができたが、術後の日が浅いこともあって3時間半の舞台を2回見るのはさすがに目に疲れを感じて頭がくらくらしたが、それでも旗揚げから欠かさず観てきたカクシンハンの舞台を見逃すことなく観ることができたのは幸いでもあった。

 

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