10名の役者が一人何役も演じる面白さを楽しむ
荒唐無稽な話の中でも役者の台詞力によって感動というものは生まれるものだと感じ入った。
加藤健一演じるペリクリーズが娘のマリーナに再会する場面で、加藤健一の台詞力に思わず涙が零れ落ちそうになって感動した。
海を舞台にした物語であるだけに、舞台装置は帆船の帆を思わせる布を用い、幕開けの場面では舞台中部を上から下まで覆うような大きな布が逆三角形に吊るされていて、いかにも帆船をイメージさせるのにふさわしい。
物語は、場所といい時といい広く長きにわたるもので、物語の展開の案内役にプロローグ役として古の詩人ガワーがそれを務める。そのガワーをはじめとして物語の登場人物を、ペリクリーズ役の加藤健一を除いて10名の俳優がいろいろな役を何役も演じ、この舞台ではそのこと自体も楽しんで観ることができる。
その面白さは、まったく正反対ともいうべき人物を演じる面白さで、たとえば山崎清介は、冒頭では近親相姦のアンタイオカスを演じるかと思えば、ペンタポリスの王サイモニディーズを演じ、ミティリーニでは女郎屋の亭主役を演じる。
詩人ガワーを演じる福井貴一はミティリーニの女郎屋の召使いボールトを演じ、マリーナの乳母を演じる那須佐代子は一方で女郎屋の女将を演じる。
ヒロイン役の加藤忍は、アンタイオケの王女と、ペリクリーズの妻となるペンタポリスの王女セーザ、そしてその娘マリーナの3役を演じる。
出演は、そのほかに畠中洋、加藤義宗、土屋良太、坂本岳大、田代秀隆、矢代朝子。
加藤健一事務所の公演は見始めてからはほとんど見てきて、シェイクスピア劇は初めてなので意外に思ったが、1985年に『キング・リチャードⅢ』を一度上演しており、実に30年ぶりのシェイクスピア作品の公演ということになり、珍しいものを楽しませてくれた。
上演時間は、休憩なしで2時間10分。
翻訳/小田島雄志、演出/鵜山仁
2月23日(月)14時開演、下北沢・本多劇場、
チケット:5400円、 プログラム:540円、座席:J列14番
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