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  ヴィオロン文芸朗読朗読会 『末よければ総てよし』        No. 2015-008

 演出家の加藤長治が演劇博物館完成を記念して創立した「地球座」は戦後に「近代劇場」として復活し、坪内逍遥訳『シェイクスピア全集』を上演台本にして上演してきたが、20作にしか達しなかった。それで未上演作を荒井良雄の朗読台本、「新地球座」主宰の久野壱弘の演出・出演により2013年4月から公開朗読を開始し、後半からは高橋正彦が演出・出演に加わって、今回の『末よければ総べてよし』をもって全作品の完演となった。
 そして1990年2月から始まったヴィオロン文芸朗読会も25周年を迎えた今回をもって幕を閉じることになったが、その最後の作品が『末よければ総べてよし』というのもまことに劇的で、これほどふさわしいものはなかった。
 今回のヴィオロン文芸朗読会は、第一部が「日英詩歌朗読劇場」でロングフェローの詩2篇(「人生の讃美歌」と「矢と歌」)とシェイクスピアのソネット2篇(29番と60番)の朗読(英語と日本語訳)、第二部が逍遥シェイクスピア名場面朗読劇場最終回『末よければ総べてよし』の構成となっている。
『末よければ』の出演者は、久野壱弘、倉橋秀美、石井麻衣子、菊地真之、沢柳迪子の5名と、口上役として荒井良雄が舞台進行役を務めた。
 フランス王演じる久野壱弘は、これまでにも毎回登場人物に合わせて衣装を凝らしていて、それを見るのも楽しみの一つであったが、今回演じるフランス王では、最初は「労」の病に苦しむ姿で声も弱弱しく演じ、ヘレナによって病が癒えると溌剌とした声に変じて、その変化をも大いに楽しむことができた。
 今回特別出演として伯爵夫人を演じた柳沢迪子は、気品のある声で、その清明な朗読はこの役柄にぴったりであった。
 ヘレナを演じる倉橋秀美は、伯爵夫人の問いかけにバートラムへの思いを心の中に秘め、悲しみに拉がれすすり泣く様子は、観ている者をしてその思いの中に引き込んでいく迫真の演技・声色が見事であった。
 バートラム演じる菊地真之は、ヘレナに対しては冷たくつれない声、ダイアナ(石井麻衣子)に対しては女たらしの表情と声色、そして王や母親である伯爵夫人に対しての言葉遣いの変化の使い分けが見事で、聞くほうもその不誠実さに思わず憎たらしくなってくるほどであった。
 このシリーズの朗読時間はおおむね1時間前後であり、出演者も3名から5名程度の限定された条件ということもあって、内容も作品のエッセンスに集約されているだけに、濃縮ジュースを味わうような濃厚さがあるだけでなく、作品の内容を知っている者にとっては省かれた場面など自分の頭の中でつなげていく楽しみもあった。
 朗読される作品については、毎回、プログラムと一緒に主催者である荒井良雄の解説が添えられており、作品の理解にも大いに参考となった。
 シリーズにおける記憶に残る朗読作品を3つあげるとすると、女鹿伸樹がリチャード三世を朗読した『リチャード三世』(2014年4月)、北村青子がヴォラムニアを朗読した『コリオレーナス』(2014年8月)、そして今回のこの『末よければ』を加えたい。
 これまでの形式のような朗読会は今回をもって終了したが、4月からは装いを新たにして「日英詩歌名作シアター」として隔月催されるということである。
 自分にとってはこの朗読会参加は2013年4月からと足かけ3年と短い期間であったが、25年間続けてこられた主催者荒井良雄と、これまた欠かさず参加されたヴィオロンのマスター寺元健治に、ご苦労様でしたと感謝の言葉を捧げたい。
 なお、冒頭部の逍遥作品上演に関しての経緯については、主催者荒井良雄の解説より借用し引用させてもらったことをお断りしておく。


2月13日(金)18時半開始、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロン

 

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