開帳場の舞台上手前方と下手後方に、それぞれ1本、ツタの葉を絡ませた灰色の円柱、薄い若草色に淡いブルーの背景というシンプルな舞台装置。
舞台奥中央上部にヴェローナとミラノを示す表象で場面を示し、山賊のいる森の場面は背景の風景を照明で描き出していて、いつものように舞台の印象を明るく感じさせる表象が印象的であった。
その明るい舞台に、ヴェローナの若者、ヴァレンタインとプローテュースが元気よく飛び出してくる。ミラノに旅立とうとするヴァレンタイン、それを引きとめようとするプローテュースのやりとりに、早速舞台に引き込まれてしまう。
最後の方で自分を裏切ったプローテュースを許すところは、本で読んでいると嘘っぽいような、いい加減な感じがするのに、一瞬の間に許し、抱擁する姿を見ると妙に納得してしまうから不思議である。
二人を演じる古谷一郎、鈴木吉行はそれぞれいい歳であるのに、その演技は若々しく瑞々しい。
ヴァレンタインの召使スピードを、ベテランの酒井恵美子が真っ黄色の衣裳で道化ぶりをうまく演じていたのも印象的であった。
演出の遠藤栄蔵が心がけているシェイクスピアの言葉の魅力を明晰に観客に伝える姿勢が感じられ、好感がもてる、親しみのある、楽しい舞台になっていた。
古谷一郎、鈴木吉行以外に、主な出演者として、ミラノ公爵に遠藤栄蔵、ジュリアに鞠みちえ、シルビアに小澤純子、プローテュースの召使いで道化役のラーンスを中井浩之。
異色の面白さを感じたのは、ルーセッタとサー・シューリオの二役を演じた森奈美守の好演。
板橋演劇センター旗揚げ公演(1980年)から今年は35周年になり、シェイクスピア全作品(37作)公演も今回の公演で残すところあと3作のみとなり、その快挙に敬意を表するとともに残り少ないということで少し淋しい気持がしている。
初めて板橋演劇センターの公演を観たのは、1998年1月、東京芸術劇場小ホールでの『リア王』であった。
その時の印象は、観客層が下町の庶民的な感じで、下駄履きで芝居を観に来ているというような家庭的な温もりがあっていっぺんにファンになったのを覚えている。
一人で全作演出、出演はおそらく誰もなし得ないギネスブック記録ものであろう。
残り3作の上演を見逃さないようにしたい。
上演時間は休憩なしで、2時間10分。
翻訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
1月11日(日)14時開演、板橋区立文化会館小ホール
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