高木登 観劇日記2014年 トップページへ
 
  花組芝居公演 『夢邪想 −「夏の夜の夢」』      No. 2014-51
 

舞台中央部には籠のような檻が据えられ、下手前方部とその斜め後方部の上手側にそれぞれ1本の木の墓標があり、墓標の下には白い花が咲いている。 
舞台後方部に木の大きな角柱が森の樹木を表象して斜めに何本か交錯して立っており、舞台奥の上方部には巨大な蜘蛛の巣が張りめぐらされている。 
客電が落ち暗転していた舞台が明るくなると、檻の中に一人の男がいて書きものをしている。 
大勢の女たちの登場し、男が閉じ込められていた檻が4つの部分に解体され、舞台前方部に並べられ、あたかも紗幕のような感じとなって、その内側で西馬音内(にしもない)盆踊りが繰り広げられる。 
この森は女だけの森で、男は子孫を残す種作りとしてひとりだけの存在しか許されない世界である。 
男は医学部の帝大生で、薬草を求めてこの森に迷い込んできたものである。 
森にはすでに女たちを支配する神門(みかど)と呼ばれる男がいるが、女たちは男一人の選択にその医学生、都万木(つまき)を選び、神門を殺して姉神の麝香(じゃこう)が森の支配者となり、医学生との間に姉神から薄羽(うすば)、妹神の緒菜香(おなが)から凪依(なみえ)が生まれる。 
医学生の都万木は種付けとしての存在に生き続けることに倦み死を望んでいるが果たせないでいたが、娘の薄羽と緒菜香に自分が文字を記した紙との交換条件で死に花を手に入れ、自分の望みを果たす。 
このとき、末妹神の香螺巣(からす)が裏切りを理由に姉神から片目を抉られ、姉神の命令で沢に投げ捨てられる。 
場面は変わって学徒出陣を見送る女学生たち、そして下宿に戻ってきた帝大生たちが学徒出陣の無意味さなど論じあっている。 
学生の一人杉渓(すぎたに)には、行方不明になった医学生だった叔父がいるが、それは都万木のことであることが後に分かる。 
出征を前にして学生の一人凪依が吉原に行き、憲兵隊に不謹慎者として懲らしめられるが、学生寮の小間使いの威詞蠣(いしがき)に救い出され、杉渓に傷の手当てをしてもらう。 
この学生は杉渓に気があるが、学生寮を飛び出して行方が分からなくなり、杉渓が吉原に探しに出かける。 
そこは身体の一部に不具があり最下等の女郎のいる吉原でも最下等のところで、その中には殺されたはずの末妹神の香螺巣もおり、彼女は小間使いの威詞蠣と相思相愛の仲になっているが、仲間の不具の女郎に変装した森の女たちに、見せしめのため威詞蠣を殺されてしまう。 
場面は再び森の中、行方不明となったもう一人の学生温羅波(うらなみ)が檻の中で薄羽と関係を持っている。 
森には再び生殖機能としての男が一人できたわけであるが、森の女に戻った凪依がおり、そこへ彼を追ってきた杉渓が迷い込んでくる。 
医学生都万木が命を絶って生殖機能としての男不在となったために、姉神たちは死に花を与えた凪依に手術で性転換をはかったが不首尾に終わったため、凪依は都万木の出身である東京帝大の学生に変装して、男を連れ出す役目を負わされていたが、血のつながりがそうさせたのか、凪依は自分の父親の甥である杉渓に恋心を抱いてしまったのである。 
杉渓は凪依を連れて森を逃げ出そうとするが、姉神たちが森の各所に高圧線を張り巡らせているのでそれに触れて焼け死ぬから駄目だと言う。 
そこへ恋人の威詞蠣を殺されて復讐心に駆られた末妹神香螺巣がやってきて、逃げ口として高圧線の一部を切り取ったので逃げるように促すと、杉渓を出し抜いて温羅波が香螺巣を人質にして逃げ出すが、彼は高圧線に触れて焼け死ぬ。 
その火が原因で森が焼け始め、姉神、妹神は自分らが檻の中に入って殺人の責任を取る。 
杉渓はそこで目が覚め、みんな夢だったと思うが、それがどんな夢であったのか覚えていない。 
この、夢から目覚めるまでの一連のできごとはシェイクスピアの『夏の夜の夢』とはまったく関連性がないが、最後の口上の部分では坪内逍遥訳の雰囲気をもった『夏の夜の夢』が色濃く感じられ、終わってみれば『夏の夜の夢』を観たという気分に浸る。 
森の薬草は惚れ薬に通じ、学生たちと森の女たち(実は蝶の妖精)との錯綜した恋愛関係は、森の中での恋のドタバタ騒動を思い抱かせる。
脚本の秋之桜子のプロフィールを見ると2011年に文学座の演出家松本祐子、女優奥山美代子と3人で「西瓜糖」という演劇企画集団を立ち上げ、その第1回作品である『いんげん』(2012年9月、新宿・SPACE雑遊)を観ていることが分かった。
今回の『夢邪想(ゆめやそう)』でも学徒出陣など戦争に関連した内容が織り込まれているが、『いんげん』にも復員兵など戦争の影が反映されていて、この脚本家の共通したものを感じて興味深かった。 
特に、森の中の女だけの世界の理由として、姉神が「男(おのこ)が男(おのこ)を殺す」として男の世界を否定する台詞を何度も口にするのも、この作品の隠れたテーマでもあるように感じられた。 
ストーリーの概略を整理する意味でまとめてみたが、舞台上での展開は錯綜していてこのように単純化してまとめるわけにはいかない。 
座長加納幸和の締めの口上ではないが、観劇後の帰る道々、じっくり反芻しながら後味をかみしめるに足る作品であった。 
出演は、神門に北沢洋、姉神の麝香に加納幸和、妹神緒菜香に矢代進一、末妹神香螺巣に植本潤など、多数。
なお、登場人物の名前はすべて蝶の名に因んでいるということであった。 
上演時間は、15分の休憩をはさんで2時間20分。

 

(原作/坪内逍遥、脚本/秋之桜子、演出/加納幸和、美術/川口夏江、12月14日(日)19時、
池袋”あうるすぽっと”にて観劇。チケット:5800円、座席:F列5番、プログラム:1000円)

 

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