高木登 観劇日記2014年 トップページへ
 
  劇団俳小公演 『どさ回りのハムレット』      No. 2014-35
 

明星大学創立50周年記念特別講演会の一環として明星大学全学共通教育委員会主催により公演された劇団俳小による『どさ回りのハムレット―兄殺しの報い―』は、私たちにとってこの上なく貴重で贅沢な贈物であった。 
明星大学がシェイクスピア生誕450周年という年に、創立50周年を迎えるのも何かの縁であろう。 
シェイクスピアに関連する催しとして、「シェイクスピア入門 パート3 稀覯書展」(8/2〜9/28)をはじめに、「どさ回りのハムレット」(9/6)、「シェイクスピアと歌舞伎」(10/18)、「シェイクスピア はじまりは恋の言葉」(10/27〜1/19)と記念行事が続く。 
さて、この『ハムレット―兄殺しの報い―』、18世紀のドイツの巡回劇団が所有していた台本ということで、それを劇団俳小が大衆演劇に仕立て、1998年に豊島区大塚の“じぇるすホール”で上演したのが最初だという。 
トマス・キッドの『原ハムレット』の形を留めたものか、シェイクスピアの『ハムレット』のダイジェスト版か、謎の多い作品であるが、『ハムレット』の面白さのエキスを十分に含んだ作品である。 
芝居を始めるキューとして音楽を座長が指示するが、そこで流れてきた音楽は歌謡曲の「花の三度笠」、着物姿の旺なつきが曲に合わせて踊り出し、慌てて座長が引っ込める。このことでこの一座が大衆演劇一座であることを表象している。 
芝居の構造としては二重三重構造となっていて、この芝居が旅廻りの「峰山団五郎」一座の芝居であることが演じられるのがその第一段である。 
芝居が始まって、この芝居の梗概ともいうべき筋立てが夜の女王によってプロローグ的に語られ、娘の魔女たち―復讐の精、死霊の精、呪いの精―が呼び出し、この物語の推進実行役を申しつけるのが、この物語の仕掛けともいうべき第二段となる。 
そして、ハムレットの劇となるのが本番の第三段ということになる。 
シェイクスピアの『ハムレット』との違いを見つけながら観るという楽しみもあって、色々比較しながら観たが、この芝居の原型が、イギリスから来た旅廻りの一座の芝居で最初は英語で演じられていたということもあってか、台詞よりも演技所作に重点が置かれているように思われた。 
一番の大きな特徴は、ハムレットの独白の台詞がまったくないということ、またポローニアスが息子レアティーズをパリに送り出す場面もないので、当然ながら彼の説教めいた教訓の台詞もないが、これらは言語の異なる言葉の問題から省かれて当然のことだろうと納得もできる。 
ついでながら、この台本がドイツ語だということで登場人物の名前もドイツ語の発音での綴りとなっているが、ポローニアスの名前はクォート版にある名前のコランビスからとってコランブスとなっているのもこの作品の原型になっているものについて一考させられる。 
すがすがしい水色の衣裳と白のタイツ姿のハムレットは、逡巡するハムレットというよりむしろ行動的にすら見え、内面的な表現の台詞が省略されている分、話の展開のテンポが速かった。 
ハムレットの行動を抑えるのは夜の女王である。 
王が悔悛の祈りを捧げる場面でハムレットが殺害を思いとどまるのは、後ろで夜の女王が糸を引いているからであるということを舞台上に可視化する。 
ギルデンスターンもローゼンクランツも登場しないが、ハムレットのイギリス行きには二人の暗殺者が同行し、その二人はハムレットの計略で同士打ちして死んでしまう。 
墓掘り人と廷臣オズリックの代わりに宮中道化師としてファンタスモが登場し、彼は気が狂ったオフィーリアに「彼氏」として追い回される一方、王の計略の片棒を担いで最後にはハムレットに刺し殺される。この道化は『十二夜』のフェステを思わせるところがあった。 
最後、ホラーチオ(ホレイショー)はハムレットの遺言に従って、ノルウェーのフォーティンブラスに王冠を伝授すべく赴く決意の言葉を残して、この『ハムレット』劇は幕を閉じる。 
ここできっとまた「花の三度笠」の曲が流れると思ったが(そのような雰囲気を持っている)、それは思った通りであったが、旺なつきの踊りはなく、すぐに曲が変わって、最後は一座の者全員が切れのいいモダンダンスで締めくくられ、これが実にまた楽しかったが、これはシェイクスピア劇の終わりに踊られたダンスを表象化したものといえる。 
キャストは、ハムレットに俳優座の志村史人、オフィーリアも俳優座の池田詩穂、王妃に旺なつき、コランブスを勝山了介、ホラーチオに手塚耕一など。 
解説付きの台本コピーが無料で配布されサービスも行きとどいていたが、観客は高齢者が多く、客席の空きがあったが、このように良質な劇を提供してくれた明星大学には感謝するとともに、もっと多くの人に観てもらいたいものだと、もったいない気がした。 
上演時間は、休憩10分を挟んで2時間10分。

 

(作者/不詳、翻訳/宮下啓三、演出・脚色/志村智雄(前進座)、
9月6日(土)昼、明星大学シェイクスピアホールにて、最前列中央の席で観劇。無料)

 

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