高木登 観劇日記2014年 トップページへ
 
  タイプス第61回公演 『ヴェニスの商人』      No. 2014-30
 

テンポの速いシンプルな構造でのスタジオ公演であった。 
開演前、深海のような深い青い光が差し込む暗い舞台奥で、ポーシャと思われる女性が静かに本を読んでいる。
その意味合いが分かるのは、舞台が閉じた時である。 
指輪騒動が治まり、アントニーの船がすべて無事だったことが判明し、すべてがハッピーエンドで終わったかのように見える時、最近の演出では必ずと言ってよいほどひとひねりあるが、ここではあっさりとそこで暗転する。 
そしてやおら時をおいて、舞台中央でスポットライトをあびたポーシャが読んでいた本を静かに閉じて終わりとなる。そう、この舞台はすべてポーシャの読む本の世界の出来事、夢物語であった。 
夢物語にしたことで、このおとぎ話もストンと納得できるような仕組みになっている。 
タイプスが自前の稽古場スタジオ・アプローズを持ってから、本公演も一部ここで上演するようになっての初めてのシェイクスピア劇で、スタジオ公演でどのような演出をするかも興味があった。 
というのも、一般の劇場公演では、タイプスのシェイクスピア劇には必ずと言ってよいほど劇中にダンサーを入れてのダンスがあるので、スタジオ公演ではどのようなストレート・プレイになるかという興味であった。 
キャスティングでは、シャイロックの新本一真、ポーシャの田中香子以外はまったく知らない名前ばかりということもあって、どのような舞台になるかも楽しみなことの一つであった。 
ラーンスロットを演じた多田智美は、シェイクスピア・シアターの木村美保を思わせる演技であったが、プログラムを見て驚いたのは彼女がユダヤ人の金貸しテューバルの二役を演じていたということで、同じ人物が演じていたとはまったく気が付かなかった。 
ラーンスロット登場の場面では、彼の父親である老ゴボーの登場が省かれていたのも特徴の一つであった。 
この舞台の中心人物となっていたのは田中香子のポーシャで、それは開演前の読書するポーシャと、読み終えた本を閉じるポーシャの姿でいっそう印象を深めたものとなっていた。 
裁判官バルサザーに変身した付け髭をしたポーシャの姿もよかった。 
新本一真は無駄なものをそぎ落とし、余分な解釈は不要とし、ストイックさを感じさせるシャイロックであった。 
アラゴン大公、モロッコ大公の二役をコミカルに演じた和久井淳一、存在感を感じさせるヴェニスの公爵を演じた藤村忠生も好印象であった。 
自分が観たステージのチケットは完売で満席であったが、終演後の出演者との交流会にほとんどの人が残っていて挨拶を交わして激励の言葉をかけていたのをみると、大半が出演者の関係者であったのだろう。 
次回は、『マクベス』をこのスタジオで上演するということなので、一般劇場でのこれまでの『マクベス』と違ってどのような演出になるか、それも今から楽しみである。 
上演時間は、休憩なく1時間45分。

 

(演出・構成/パク・バンイル、8月9日(土)13時開演の部、両国のスタジオ・アプローズで観劇)

 

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