高木登 観劇日記2014年 トップページへ
 
  劇団昴公演 『リア王』      No. 2014-24
 

舞台奥背景の全面を大きな白い布が覆い、布の表面には波紋が下方に向かって広がっている。 
この布は、場面転換に従って取り外されたり、半分にまくりあげられたり、三角形状になったりして場面の表象としてのアクセントの役割を担う。 
舞台上には黒に赤い筋目の模様の入った開帳場状の台、この台は大きく二つに区切られていて場面が変わるごとに移動させられて形態を変える。 
これら二つの道具をすばやく転換させることで舞台にスピード感を持たせている。 
リアの国譲りの場面で3人の娘たちが登場した時、ゴネリル(一柳みる)の衣裳が金色、リーガン(林佳代子)のは銀色、そしてコーデリア(槙乃萌美)は青みがかった灰色で、それぞれの衣装の色が『ヴェニスの商人』の箱選びに出てくる金、銀、鉛の箱に刻まれた銘、見かけと内実の違いのことが思い出されて興味深かった。 
金子由之は精悍なリア王を演じたが、嵐の中の狂気のリアやコーデリアの死を嘆くリアとの落差をもっと出して欲しかった。特に後半部は台詞のカットの影響もあって物足りなさを感じた。 
死んだコーデリアを抱いて「泣け、泣け、泣け!」という台詞以後のリアは一本調子に過ぎていってしまってリアリティが感じられず、感動もなく涙も出なかった。 
実質2時間30分の上演時間では台詞のカットはやむを得ないことであるが、この最後の場面の台詞の大幅なカットによって、余韻も余情もなくなっていたのが惜しまれる。 
金子の精力的なリアに比して、西本裕行の道化はよく言えば枯れた演技で渋みのうまさがあったが、ここでも台詞のカットが目立ってその省略が省エネのくたびれた道化のようだった。 
一方で演出上の工夫に、道化が気違いトムに扮したエドガーに自分のとさか帽を投げ渡して消えていくところは、気違いの前では自分の出番がなくなったことを示しているようで印象に残るものであった。 
不満と言えば、エドマンドを恋するようになったゴネリルとリーガンの二人の姉妹、この二人がエドマンドを恋するようになるきっかけらしきものの演出の工夫が一切ないことである。 
別に説明的にする必要はないが、説得性があってしかるべきではないかと思う。 
これはなべて登場人部の造形にもすべて言えることだった。 
台詞のカットは問題としないが、原文にない余分な台詞が入るのはあまり感心しない。 
シェイクスピア劇としては福田恆存を祖とする劇団昴であるだけに気合を込めて観るので、それだけに期待度との落差をつい感じてしまい辛口の評価になってしまう。 
出演は他に、グロスター伯爵に牛山茂、ケント伯爵に水野龍司、コーンウォール公爵に石田博英、アルバニー公爵に鳥畑洋人、エドマンドに永井誠、エドガーに中西陽介など。

上演時間、途中10分間の休憩をはさんで2時間40分。

 

(訳/福田恆存、演出/菊池准、6月7日(土)夜、池袋“あうるすぽっと”にて観劇。
チケット:3500円(オープニング特別価格)、座席:B列11番、プログラム:500円)

 

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