高木登 観劇日記2014年 トップページへ
 
  『カクシンハン版 夏の夜の夢』      No. 2014-23
 

旗揚げ公演から見る機会を得た唯一の劇団であるだけにその公演を楽しみにしているが、今回チラシを見た時、出演メンバーに杉本政志(シェイクスピア・シアター出身で現在劇団AUNに所属)や、前回リア王として出演した河内大和などが出演することで期待度も大きかったが、その期待に応える面白さであった。 
出演者の一覧を見た時にキャスティングをどのようにするのか自分で考えるのも楽しみであるが、今回のキャスティングは意表をついた形で、そのズレをも大いに楽しむことができた。 
もっとも大きなサプライズは杉本政志のティターニア役で、衣裳は女郎の着るような赤い長襦袢姿で、しかも胸をはだけた姿で登場し、夫であるオーベロンに激しい口調で絶叫的に毒づく、そのイメージの大きなずれが笑いを引き起こす。彼はハーミアの父親であるイジーアスをも演じる。 
もう一つのサプライズは、ヘレナとパックの両方を演じる真以美。彼女のイメージからするとハーミア役だと思ったが、それ以上にこの二役は驚きであったし、二役をうまく早変わりするのも見ものであった。 
文学座所属の中村彰男がシーシアスとオーベロンを演じたが、彼の台詞回しはことさらに役どころとのズレを感じさせ、異質感と不調和が却ってアンリアルな存在感を感じさせた。 
シェイクスピア・シアターで主に道化役で楽しませてくれた木村美保が、最近シェイクスピア・シアターの舞台で見かけなかったので心配していたが、その彼女がハーミアを演じたのもズレを感じたひとつであるが、久しぶりに彼女のダイナミックでコミカルな演技を見ることができ安心もした。 
演技の所作で堪能させてくれたのは、河内大和のボトム役でのロバに変身した場面。 
筋肉質な身体を自在に動かしたロバの手足の所作はリアルで、絶品としか言いようのない演技であった。 
また、ボトムとしての台詞回しと劇中劇でのピラマスの声色をことさらに平板化して役柄としてのズレの落差が強調されていたのも一興であった。 
舞台装置も、狭い空間ながらシンプルではあるが工夫が凝らされていた。 
客席は舞台を挟んで両サイドにあり、舞台そのものは工の字型を横にした形で、客席に挟まれたメイン舞台は歌舞伎舞台の花道程の広さもなく、全体的にも演技空間は非常に限定されたスペースであった。 
しかも開演当初のメイン舞台は、ただでさえ狭いその場所に2、30cm幅で、高さが6,70cmぐらいで白い布がかぶせられた高台がその場所全体に占めていて、残された空間は人一人がやっと動けるほどしかない。 
舞台の両サイドの壁面には、一方に大きな金色の月、もう一方に鉛色をした月が描かれている。 
金色の月を背景にヒポリタが立ち、鉛色の月を背にシーシアスが立つ。 
メイン舞台の高台はアテネの職人たちの登場でやっと取り払われ、動ける空間が少しだけ広がるが、高台が取り払われると当然のことながら、互いに対面側の観客の顔がはっきりと見えるようになり、舞台の進行を見ながら観客の顔の表情まで見ることになって、二重の面白さを味わうことができる。 
衣裳面では、妖精をはじめ宮廷人、職人たちは全員が白い衣裳、妖精の王オーベロンは黒い衣裳で、ヘレナはスカート部分だけが赤色、それにティターニアの衣裳が先に述べたように赤色であった。 
貴族たちの結婚式の後の祝宴で職人たちの芝居も終わり、夜の世界を支配する妖精たちも消え去った後、暗闇の中に、ロケットの発射の秒読みの声が聞こえ、ゼロの合図でロケット発射の轟音。 
鉛色をした月面に、Welcome to the Moonの標識が立てられ、宇宙帽をかぶったシェイクスピアの顔が描かれた旗を持って出演者全員が月面に向かって進み、その旗を月面に立てて歓声をあげ世紀の瞬間を演出する。 
月面の反対側には、バレーボール大の紙風船作り(?)の地球が吊り下がっており、一同はその地球に向かって手を振る。 
そして、うごめく出演者たちに混じって語られるパックの口上で舞台が締めくくられる。 
全体的な台詞の流れは原作におおむね忠実であるが演出の奇抜さが加わることで、『夏の夜の夢』の喜劇としての面白さを存分に楽しむことができた。 
出演は、ヒポリタに久保寺淳、ライサンダーに神保良介、デミートリアスに齊藤翔など、総勢16名と賑やか。 
上演時間は途中10分間の休憩をはさんで2時間30分。

 

(訳/松岡和子、演出/木村龍之介、6月4日(水)夜、新宿三丁目・SPACE雑遊にて観劇。
チケット:3500円)

 

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